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花の名前3

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 そっぽを向いたままの彼女に、大神は微笑んだままー今度は日本語でその言葉を伝える。

 「それでも俺は、君に礼を言いたいと思ったんだ。本当に、ありがとう」

 再び繰り返された感謝の言葉。どんな顔をしていいのか分からず、怒ったように大神を見るマリア。緑の宝玉が二つ、真っ直ぐに大神を睨みつけ、大神もまたその瞳の息をのむような美しさに目を奪われた。
 どれだけそうしていただろう。先に根負けしたのはマリアの方だった。すっと目をそらして小さな吐息。それからふと思い出したように再び大神を見て問いかける。体の調子は大丈夫なのか、と。
 彼女の気遣いが嬉しくて、大神はまるで子供のような満面の笑みをその面に浮かべた。大丈夫だよーそう答え、ありがとうと、マリアを見上げる。
 マリアは諦めたようにため息をついた。何を言っても無駄だと悟ったのだろう。ただ苦虫をかみつぶしたような表情で、大神を少しだけ睨んだ。
 そんなマリアの表情すら新鮮で、全く応えた様子もなくにこにこ笑う大神に、少しぶっきらぼうにも聞こえる口調で食べたいものはあるかと尋ねるマリア。食べられるようなら食事はした方がいいから、と。

 「ボルシチ!」

 迷うことなく大神は答えた。それはマリアが得意とするロシア料理だ。そして大神とマリア、二人にとって思い出の料理でもあった。もちろん今目の前にいるマリアがそのことを知るはずもないが、それを抜きにしても大神は彼女の作るボルシチと言う料理がが大好きだった。
 そんな大神の言葉にマリアの目が、大きく見開かれる。何か強い衝撃を受けたような、そんな表情。そのまま彼女はなぜか食い入るように大神の顔を見つめていた。
 突如豹変した彼女の表情。その強い眼差しにさらされて、大神はとまどい困惑する。自分は彼女にショックを与えるような、そんなことを言っただろうか、と。それからおずおずと、

 「ダメ…かな?」

 そう尋ねてみた。

 『…いや…そう言うわけではないが…』

 彼女は歯切れの悪い口調でそう答える。何かを探すように大神を見つめていた目が不意に逸らされた。そしてそのまま乱暴に大神の肩を押し、その体をベットの中に押し込む。寝ていろーそう言って、マリアは毛布をその肩口に引き上げた。

 『材料がないからボルシチは無理だ。代わりに何か、胃に負担のないスープでも用意してくる。それまで少し、休んでいろ』

 大神はおとなしく布団にくるまり、彼女の言いつけに従う。まだ本調子でないことは、自分が一番よく分かっていたからだ。
 丸くなり少し眠っておこうとしたとたん、彼女の言葉が降ってきた。

 『そういえば、お前…名前は?』

 「名前?そうか、まだ言ってなかったね。俺は大…」

 大神一郎と、正直に本名を答えかけ、大神は慌てて口をつぐむ。紅蘭に注意されたことを思い出したのだ。
 言いかけて、口を閉じた大神に怪訝そうな眼差しを向けるマリア。そんな彼女に向かってごまかすように微笑み、「一郎だよ」と、短く答えた。
 それを聞いたマリアは、覚えるように今聞いたばかりの名前を口の中で繰り返している。その響きが耳に新しくて、大神は首をすくめて小さな笑みを漏らした。

 ーマリアは俺を隊長としか呼ばなかったからな

 だからだろうか。彼女の声で響く自分の名前は妙に新鮮だ。心地よく耳に響くその声を聞きながら、大神はくすぐったそうに笑うのだった。
作品名:花の名前3 作家名:maru