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ラボ@ゆっくりのんびり
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ひとつぶのいちご

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 きょうだいというものをあたしは全く知らない。
 ついと周囲を見回してみると、あたしの周りには“きょうだい”がたくさん溢れている。例えば彼氏であるセンパイにはえみかという妹が、えみかの幼馴染の沙夜にもお兄ちゃんがいて、京介にはお母さん違いのお兄ちゃんがふたり、大好きなリカちゃんにはどうやら有名モデルらしいお姉ちゃんがいて、そして誰よりも近くにいる従兄弟の嵐士には泉水ちゃんという弟がいる。あたしの周囲に居る一人っ子はあたしの他にかおりくらいのものだった。
 あたしにはきょうだいというものが居ない。けれど“おにいちゃん”というものならば多少は理解できているつもりだった。
 物心ついたときから一緒に居た嵐士はあたしにとっておにいちゃんそのものだった。嵐士と、泉水ちゃんと、そしてあたしの三人で公園などで遊んでいるときなど、近所のおばちゃんはあたしたちを三人きょうだいと勘違いしたくらいだ。嵐士はいつも優しかった。泉水ちゃんへの優しさと寸分違わぬ優しさをあたしに注いでくれていたと思う。それはきっとあたしが美少女だからとかでは全くなくて、絶対に有り得ないことだけど例えばあたしが不細工だったとしても嵐士の優しさはきっと変わらなかっただろう。
 だからあたしは存分に嵐士に甘えながら過ごしてきた。嵐士はあたしが何を言っても大抵のことなら柔らかく笑って「うん」って頷いてくれることを知っていたし、あたしはそうやって嵐士に頼みごとをすることで心の中の寂しさを拭っていたことを嵐士も知ってくれていた。


「ねえあらし、めぐみ今日買い物行きたいんだけど、いっしょについてきてくれる?」


 昼休みの始まりを告げるチャイムと共に姿を消した嵐士が教室へ戻ってきたのは、昼休み終了まであと五分も無いときだった。普段ならほとんど使われない携帯電話がその手に握られていることを心の中で少し不思議に思いながらあたしは問うた。嵐士はあたしの言葉を飲み込むように一瞬の間をあけたあとふっと笑顔を浮かべたけれどその笑顔はいつもの柔らかいものとは少しだけ違って、あたしは嵐士を見上げながら僅かに首を傾げた。その時の嵐士の笑顔は、長い間ずっと一緒にいたあたしでさえ見たことのないようなもので、何だか少しだけ困ったように戸惑ったような、上手く言葉に出来ないけれど嵐士らしくない笑顔ではあった。


「ごめん、めぐみ」

「………え?」

「今日、朝から泉水が具合悪そうだから、HR終わったら一緒に帰ろうと思ってるんだ」

「いずみちゃん、具合悪いの?」

「たぶんね。表には出してないけど、さっきため息吐いてたし、一応母さんに連絡したんだ」


 だから今日はごめん。そう言いながら嵐士は視線だけを泉水ちゃんに向けていた。それにつられるようにあたしも泉水ちゃんの方に視線を流す。頬杖をつきながら窓の外を眺めている泉水ちゃんはいつもと何も変わりなく見えたけれど、そういえばどことなく顔色が悪いような気がした。けれど些細なもので、嵐士の言葉を受けていなければその変化なんて全く気付かないようなほどのものだった。
 普段のあたしだったら我侭を言っていただろう。泉水よりもあたしを優先して、と持てるもの全てを駆使して。
 けれど何も言えなかった。何もできなかった。ただ小さく「わかった」と言うことだけが精一杯だった。
 何故なのか理由はわからない。どうしてかあたしの脳内には、小さなころからあたしと泉水を大切にしてくれる嵐士の姿が浮かんだ。だけどあのころより大人になった今、冷静になって考えると、嵐士はいつも一番に泉水を思っていたような気がした。あれは幾つの頃だったか、パパもママも仕事で家にいなくて、あたし一人で羽柴家にお泊りに行ったとき、ちとせちゃんが出してくれたショートケーキの苺がもっと食べたくてあたしと泉水ちゃんで大喧嘩になったことがあった。お互い一歩も譲らなくて、すぐにでも泣き出しそうだったあたしと泉水を見かねて嵐士が自分の苺をあたしにくれた。あのときあたしは嵐士があたしに優しくしてくれたとばかり思っていたけれど、よくよく考えるとあれはあたしではなく泉水への配慮だったんじゃないだろうか。あのまま喧嘩を続けていたらあたしは確実に泉水から苺を奪い取っていただろうし、たとえ奪い取っていなくてもお互い大泣きすることは目に見えていた。泉水が泣かないように、泉水が苺を食べられるように──嵐士がそう思って動いたんじゃないかと思うことが、その件だけじゃなくても多々あったような気がした。
 だから今も、一人苦しむ泉水を、あたしよりも優先したのかもしれない。
 あたしにはきょうだいというものが居ないからきょうだいを思いやる気持ちというものが全く分からない。だけどふと周囲の“きょうだい”を見渡して、嵐士の泉水へ向かう思いやりがどうしてかまわりのきょうだいとは全く異質のもののように思えてしまった。
 小さく首を傾げながらあたしは放課後の買い物に誰を誘おうかと携帯を開くと、同時に昼休み終了のベルが鳴った。