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名前を呼んだ日

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 ぱしーんと後頭部に衝撃。すばやい、いいつっこみだ。妙なところに感心しながら、後頭部を片手で撫でる。
 困った。なけなしの案が却下されてしまった。他になにかいい案は……泳いだ目線がシャマルの顔で止まる。

 「……はやてちゃん」

 「……うわっ、きしょっ」

 グサっときた。きしょって……きしょって……気色悪いってことですよね、主……。
 傷ついて拳をプルプル震えさせるシグナムを見てしまったと思ったのか、

 「あー、ごめんなぁ。思わず本音がでてしもーて。シャマルにそう呼ばれるのはいいんやけど、シグナムにそう呼ばれるとなんか、なぁ?」

 そういいながら、頭を抱いてよしよしと撫でてくれた。それだけでなんとなく気分も浮上し、頑張って他の案を考えてみようと、再び、みんなの顔を見回す。
 ザフィーラの顔を見る。ぽん、と手を叩き、

 「がう」

 そう言って真面目な顔で主を見た。半眼になった主が怖い。別の案を考えよう。だが、他にどんな呼び方があるだろうか。

 「……はやてさん」
 「う~~~、ちょっとましになってきたけど、却下。家族にさんづけって、なんか教育ママみたいでいやらしいやん?」

 何がいやらしいというのか。かなりすたんだーどな呼び方だと思ったのに。だが、却下されてしまったのだから仕方が無い。何とか別の呼び名を。

 「はやぽん」
 「却下」
 「はやや」
 「却下」
 「まいはにー」
 「……(赤)却下」

 数打てば当たる作戦を決行してみるものの、結果は芳しくない。だが、あきらめる訳にはいかない。主の期待に応えねばっっ!!!

 20分後。

 「はやっち」
 「……却下」

 「っだあ~~~~!!!まどろっこしい!!」

 とうとうヴィータが切れた。

 「呼び捨てでいいじゃねぇか、呼び捨てで!ほら、呼んでみろ。はやてって。簡単だろ」

 呼び捨て。それは思いつかなかった。
 シグナムは目から鱗が落ちた思いではやてを見た。そして口を開く。

 「はやて」

 するりとすべりでたその呼び方は、何だか妙にしっくりと口に馴染んだ。
 これも、ダメだろうか?
 窺うように主を見る。
 彼女は笑っていた。嬉しそうに。その笑顔があまりにまぶしくて、もっと見ていたいと心から思った。
 だから。

 「はやて」

 もう一度、彼女の名を呼ぶ。
 彼女は更に笑みを深めて、

 「はい」

 と、応えてくれた。嬉しそうに、少しだけ恥ずかしそうに。

 
 それは初めて彼女の名前だけを呼んだ日。
 何が変わったわけでもないのに、今までよりもっとずっと、主が近くなったように感じた。
作品名:名前を呼んだ日 作家名:maru