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その日、夜も更けた頃のことだ。

「おっかしいなぁ」

鞄を漁っていたブランドが声をあげる。
この狭い宿屋の部屋では、すぐにその声は俺の耳にまで届いた。
声に気がついた俺は、ベッドの上で胡座をかいたまま唸るブランドに言った。

「どうしたんだ。何か無くなったのか?」
するとブランドは鞄から顔をあげて俺を見ると、眉を八の字に下げた。
「呪文の書かれた本が無いんだ、それも全部。ジュスカ知らない?」

「いや…知らないな」
お手上げと言わんばかりにブランドは両手をあげてみせる。
「ここに着くまでにはあったんだ。だから、街のどこかで落としたのかも…」

「あんな大きいもの、落としたらすぐ分かるだろう」

「でも、実際無いし」
今から探しに行くか、とブランドが立ち上がろうとした瞬間、この部屋のドアをノックする音が聞こえた。
それから遠慮がちに開かれたドアの向こうに見えたのは、ブランドと同じく眉を八の字にしたユニータだった。

「ごめんなさい、もう寝てましたか?」
ユニータがドアから少し顔を覗かせながら言った。
「いや、まだだよ」
ブランドが言いながらユニータを部屋に招き入れるように手招きする。
すると彼女は丁寧にドアを閉め、一息置いてから傍にやってきて言った。

「あの、アイレを知りませんか?」
さっきから姿が見えなくて、とユニータは不安そうに視線を下げる。

「いや、見てないな…」
俺が言うと、同じくブランドも見ていないと首を横に振る。

「トイレじゃないのか?」
ブランドが言うと、ユニータはそれは無いと返した。
「いなくなってから数十分は経ってますし、そこは私も確認しました。…本当に、どこにもいないんです」
気がついたらいなくなってました、とユニータは続けた。

「アイレを、探さないと」
そう言ったユニータに俺が頷くと、ブランドも勢いよく立ち上がった。
「俺、街の方を探してみるよ」

「私も行きます」
ブランドがユニータの横に並び、俺は手元にあった自分の鞄を持った。
「俺はアイレを見た人がいないか聞いてくるよ。今、酒場なら開いてるだろ」
それぞれ役割が決まったことを確認し、俺たちは宿屋を後にした。


* * * * *


宿屋からまっすぐ酒場まで来てみると、やはり中からまだ人の声がする。
入ってみると、予想していたより大勢の人がいた。
さて誰から訊いていこうかと考えていると、近くのテーブルにいた男たちの会話が耳に入った。

「…でさ、俺は止めたんだよ。夜の街の外は危ないから止めとけって」

「へえ。その子、女の子だったんだろ? まずいかもな」

「ああ。今頃ゴブリンの餌になっちゃってるかも」

男らの話でもしやと思い声をかけると、その二人は詳しい話を聞かせてくれた。
「だからさ、俺今日この街に着いたんだよ。日が暮れる直前に着いたから運が良かったが街の入り口で丁度金髪の女の子とすれ違ったんだ」
やはりアイレか、と確信し、俺は静かに耳を傾けた。
「それで夜は外のモンスターがおっかないから出ないように言ったんだが、その子聞かなくってなぁ…って、おいアンタ、どこ行くんだよ!?」

男の話は最後まで聞かず、「ありがとう」と礼を言ってから男は酒場を飛び出した。


* * * * *


「ああ違う、こうでもないわ!」

街の外を歩いていると、どこからか声が聞こえた。
今のは間違いなくアイレの声だ。近くにいるのは分かった。あとは彼女がいる場所を見つけるだけだ。

夜のため視界は暗く辺りの様子は分かりづらい。
最近気付いたことだか俺は夜目がきかない。
やはり動物だと鶏になるせいだろうか。
そんなことはさておきアイレを探し歩いていると、前方から光る球が飛んできた。
なんだアレは。虫か?
そう思っている内に、その球が炎に包まれていることに気がついた。



―――ファイアだ!



間一髪のところで避けると、ファイアの発生源であろう方向に月明かりに照らされてきらきらと光る金髪が見えた。


あれはまさしく。


「アイレ!」

急いで駆け寄ると、魔導書を持ったアイレが俺に気づき、顔をあげた。

「あら、ジュスカじゃない。どうしたの?」
それはこっちの台詞だ!と怒鳴りたい気持ちは抑えて、俺はアイレの腕を引いた。
「みんなお前を心配して待ってる。帰るぞ」

「ちょ、ちょっと!はなしなさい!」
アイレは俺から逃れると、魔導書を抱えなおした。

「お願いジュスカ、あと少しだけ待って…」
アイレが持っている魔導書を見て、俺はため息をついた。

「アイレ、お前の魔導書…ブランドのだろ」
言えば、ぎく!とアイレは肩を揺らした。相変わらず分かりやすい。
「勝手に持ってきたことは謝るわ。ただ、あと少し待ってくれれば良いの」
続けて、それから…と言い、アイレは口ごもる。
「なんだよ、言いにくいことなのか?」

「……しいの」

「なんだ? 聞こえない」

「っ…だから!私が魔法の練習してたことは黙っててほしいの!」
アイレは一気に言い終え、大きく息を吐いた。

俺はふと疑問に思い、首を傾げる。

「お前…魔法の練習してたのか?」


「え!?」

気付いてたんじゃないの!?、とアイレは言いながら慌てる。
「いや、練習とまでは…」

「そんな…」
なら言うんじゃなかった…とアイレは肩を落とす。

「それも、なんでまた魔法の練習なんか」

「…だって、昼間の私、ひどかったじゃない」
昼間、と言われて、俺はピンときた。
今日あの街に向かう途中のモンスターとの戦闘でのことをアイレは言っているのだろう。

「ファイアもブリザドも上手く詠唱できなくて、結局失敗しちゃったし…私だけみんなの足手まといになるのが嫌なの」
なるほど、だから夜こうして魔法の特訓、というわけだ。
「でもなんでブランドの本を…」

「私のはユニータが持ってるから持ち出したらすぐバレちゃうし、ブランドはあんまり魔法使わないからバレないかな、て思って」
後でちゃんと返すつもりだったわ、と言いアイレは視線をそらした。

「私は、あまり力が強くもないし…せめて魔法だけでもみんなに追いつきたいの」
アイレの目が少し潤んでいた。
それを見逃さなかった俺は、アイレの腕を引き出来るだけ優しく抱きしめた。
すると途端にアイレは俺の腕の中で暴れ出す。持っていた魔導書も地面にバサバサと落ちてしまった。本当にお姫様なのか、こいつは。

「何すんのよジュスカ!」
離しなさい、とアイレは怒鳴るが、それは無視して彼女の頭を軽くぽんぽんと撫でた。

「頑張るのは良いことだ。でも無理すると体壊すぞ」

「…分かってるわよ、そんなこと」
でもやっぱり…と弱い口調で続けるアイレ。
ようやく俺に体を預けた彼女にも、こんなに女の子らしい部分があったとは。
今更ながらに不思議な感じだ。

「どうしても訓練を続けるってんなら、俺も付き合う。さすがに一人だと危険だ」

「えっ…!」
ばっ、と顔を上げたアイレは、目を何回もぱちぱちとまばたきさせていた。
「俺だって魔法は極めたいし。駄目とは言わせないが」

「…ジュスカって、やっぱりよく分からないわ」
でも、ありがとう。
小さな声でアイレが言った。

作品名:導く 作家名:ころすけ