君のぬくもり
アンディの部屋のベッドの上で、ウォルターはごろりごろりと転がる。
右の端まで来たら向きを変えて左の端までごろり、左の端まで来たならまた向きを変えてごろり……。
「あーっ……ダリぃ」
ベッドの横に立って、それを眺めていたアンディが、首を傾げる。
「……ダルい?」
ウォルターを見下ろして真面目に言う。
「……何もしてないように見えるんだけど」
「息してるのもダリぃんだよ」
「死ねば?」
「冗談だよ、本気にすんな! ってか、何その容赦のない発言!! おまえ本当につれない……ってか冷たい!」
元気な文句が返ってくる。
アンディは憮然とした。
しまった、このヒマ人はかまってくれる相手が欲しかっただけなのか……と気付いて後悔した。
でも、もう遅い。
室内に入れた時点で遅い。
招き入れたわけじゃなく、勝手に踏み込んできたのだが。
ハーッと大きくため息を吐く。
なんで自分より体も大きければ年齢も上の相手をかまってあげなきゃいけないんだか。
その理由はどこにある。
たとえ冷たいと言われようが……。
それに反論すれば今度はやさしいところを見せなくちゃいけないわけだし。
この『大きなこども』に。
そうだよ。ボクは冷たいんだよ。
それを口に出すこともせず、アンディは代わりの言葉を投げつける。
「用がないんなら出てってよ」
ごろん、と仰向けになったウォルターが、首を傾けてジトッとした目を向ける。
「アンディ、おまえさぁ……」
ウォルターはそこまでで口を閉じて、じっとアンディを見る。
そして、よいしょっと上半身を起こした。
それから改めて横に立つアンディを見上げる。
ニッと笑って。
「もうちょい自分を大切にしろよ。今のは怒るとこだぜ」
「怒ってるよ」
何を言うんだか……と呆れてアンディは返す。
こんな勝手に部屋に入ってきて、ベッドの上でごろごろされて。
この状況で怒らないほうがおかしい。
すると、ウォルターの笑みがふっと悲しげなものになる。
驚いて目を見開くアンディに、ウォルターはため息を吐いて言った。
「そうじゃなくて、おまえは冷たくなんかないだろ」
「それはウォルターの希望でしょ」
ボクは冷たいよ、と素っ気なく言ってそっぽを向く。
ウォルターが頬杖をついて、難しそうな顔を天井に向けて、ぶつぶつと言う。
「まあ……な。いや、俺はやさしくされにきたわけじゃねぇぞ」
どうだか、とアンディは息を吐く。
こんな『大きなこども』、かまってあげたらそれだけでじゅうぶんやさしい。
で、自分はそんな気はないというわけだ。
振り向いたウォルターが、真面目な顔で手招きをする。
「ちょっと来いよ、アンディ」
来い来い、と手招きされ、アンディはきょとんとしてウォルターに近付いた。
ベッドのすぐ側に立ってウォルターの方を覗き込むと、いきなりぎゅっと抱きしめられる。
「つかまえたーっ!!」
抱え上げるようにして、『えいっ』とベッドの上に投げ出される。
「何するんだよっ……」
ベッドの上にペタンと座り込み、慌てて降りようとしたところを、腰と肩に腕を回され、再びぎゅううぅっ……と抱きしめられる。
引っかけられた。
顔の横にウォルターの顔がある。どうやら笑っているらしい。
くっくという低い笑い声や、耳にかかる息や、細かく震えている体からわかる。
それがまたムカつく。
アンディはもがいた。
「はなせっ……」
がっちりとたくましい腕につかまえられていて、抜け出すことができない。
それどころか、苦しい。息ができない。
「殺す気かっ……」
「いて、いててっ」
いまいましくて、ドンドンとウォルターの背中を拳で叩いて、しまいには髪の毛を引っ張る。
「抜ける抜ける髪の毛抜ける、ハゲるって!!」
ようやく降参したウォルターから解放された。
アンディは『フンッ』と大きく息を吐いて、ベッドから飛びおり、乱れた服を直す。
ウォルターが涙目でアンディを見る。
「アンディ……」
何か恨めし気だが、恨めしいのはこっちの方だ。
じろりとにらみ返す。
ウォルターがニヤッと笑った。
「……やっぱ、温かいじゃん、おまえ」
(おしまい)