Wizard//Magica Infinity −1−
………
「…っ!」
−ハルトせんぱ~いっ!!朝ですよ~っ!!−
朝。窓から入る直射日光が顔に当たり俺はベッドから身体を起こす。
今日も気持ちの良い朝を迎えた。
同時に外から聞きなれた後輩の声が聞こえてくる。
後輩が元気良く俺の名前を呼ぶ声は目覚まし時計の役割も果たしていた。
「ぐぬぬ…くぅ…ふぃ~」
両腕を上に伸ばし大きくあくびをする。
乾いた口を大きく開け部屋中に俺の声を響かせた。
正直寝足りないが、再び横になれば寝てしまうだろう。
流石に遅刻は不味い。
俺は頭をわしゃわしゃとかきながらベッドから降りた。
そのまま部屋に投げ捨てられた服を着て一気に階段を駆け下りる。
「おいハルト、いつまで瞬平くんを待たせるつもりだい?」
「悪いおっちゃん、俺もう学校行くわ!」
「お、おい!朝食は?」
「ごめん、それ俺の分食べていいよ」
下の階に降りると俺の親戚の「輪島のおっちゃん」が二人分のフレンチトーストを焼いてくれていた。だが優雅に朝食を食べている時間はない。香ばしい匂いがそこらじゅうに漂って美味しそうだが、今回は諦めよう。
洗面所で寝癖を直し、バッグを持って外へ出る。
すると、直射日光が俺に降り注がれる。
今日は晴天、気分は軽やか。
なにか良い事がありそうだ。
「ハルトせんぱ~い!!」
「あぁ、しゅんぺ…」
「あぁっ!止まらない!!せんぱい避けてぇぇ!!」
「え?っ!!」
ふと、俺の目の前が真っ暗になる。
一瞬の出来事だった。
俺の前には後輩の身体が宙を舞う。
おそらく、俺に駆け寄ってきた時に助走を付けすぎたんだろう。
そして興奮して俺に駆け寄ってきたのは良いが今度は止まらなくなり…
「ああぁぁぁっ!!」
「ぐふぅっ」
身体中に衝撃が走る。
脳がぐわんぐわんと麻痺し、次の瞬間に自分の身体と地面がぶつかった衝撃が押し寄せてきた。
「うわぁぁっ!!すいませんハルトせんぱいっ!!」
「あ…あぁ……」
何故だ。
何故こんな朝っぱらから男同士で一昔前の少女漫画的なイベントが発生しているのだろう。
俺の弟分、「永井瞬平」の体温と汗の匂いが俺の身体を伝わってくる。
あぁ…気持ち悪い。
「…なにしてるの?ハルト」
すると、俺の耳に第3者の声が聞こえてくる。
それと同時に今度は俺が冷や汗をかきはじめた。
「っ!!お。おい瞬平!今すぐどけろ!!」
「ちょ、ちょっと暴れないでください!ハルト先輩!!」
まずい。何がまずいかって?
目の前で男同士が重なり合い、あまりの衝撃で声が出ず直立している少女の誤解を解くためだ。
力任せに瞬平の身体を俺の上から無理やりどかし、その場から数歩分後ずさった。
「違う!違うんだコヨミ!!これは事故なんだ!」
「じ…事故って?私がここに現れたことが?」
「違うそっちじゃない!!俺と瞬平が朝一番で熱く抱きつきあっていたことをだ!」
「断言しちゃうんだ…引く」
「ハルト先輩…まさか先輩がそんなに俺のこと…」
「お前まで何言ってるんだ!あぁもうっ!!」
セーラー服がよく似合うこの少女の名前はコヨミ。
俺の幼馴染だ。長い黒髪がよく似合う美少女でちょっと内気なのが特徴だ。
瞬平『達』がこの村に引越してくる前はずっと一緒だった。
だから優一俺にだけは心を開いてくれる。
だが、現在進行形で今までの年月で得られた信頼度がぐ~んと落ちていく…。
そんな時だった。
「朝から何やってんの~?早く学校行かないと遅刻しちゃうよっ!」
「あっ…」
「凛子さん!」
「り、凛子ちゃん」
太陽がバックになり眩しくて彼女を直視できない。
だが次第にそのシルエットは明確になっていく。
俺と瞬平が普段着であるように、また彼女もポロシャツにちょっと足が出るタイプのジーパンを履いて仁王立ちをしていた。
そう、彼女こそが俺たちのリーダー。
大文字凛子、凛子ちゃんだ。
「さぁ、さっそく我が『探検部』の今日のミッション!誰が一番早く学校に到着できるか!」
「え、ちょっと待ってくださいよ凛子さん!!」
「よ~い、スタートっ!!」
凛子ちゃんの掛け声と共に綺麗なスタートを見せて一目散に走っていく。同時に瞬平が後を追いかけるように走っていった。
「行こう、コヨミ」
「あっ…」
俺はコヨミの手を引きそれに続いていく。
これが、俺の普段の日常。
「ほ~ら!瞬平、もうバテてるの?あんた男の子でしょ?」
「だ、だって…はぁっはぁっ…凛子さんが元気すぎるんですよっ!」
「コヨミ、大丈夫か?」
「うん、でも私のペースに合わせたら、ハルトは…」
「良いの。今日の罰ゲームは二人で受けよう。ね?」
「うん、ありがとうハルト」
沢山の自然に囲まれた小さな村。
面影村での俺たちの日常。
何もなくても、そこには大好きな仲間がいる。
俺の…俺の幸せな時間。
俺の大好きな世界だ。
作品名:Wizard//Magica Infinity −1− 作家名:a-o-w