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Wizard//Magica Infinity −2−

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朝の散歩といっても特に目的は無かった。
ただ、ちょっと外に出て眠気を吹き飛ばせれば良いな、という程度だった。
俺は農道をひたすら歩いた。

「うん…やっぱりなにもないな…」

そこには見慣れた光景。
今は初夏、6月。
畑に植えられた作物の苗が次第に大きくなっていく時期だ。
そのため俺の目には目新しいものなど一つもない。
そのまえに普段の探検部の部活動で色々な場所に出向いている為、余計に目新しいものが何一つ無かった。

だが、そんな俺の目に一つの人影が映った。
畑の奥に走っている人がいる。ジョギングでもしているのだろうか?
俺はそこまで目が悪くない。
それが誰なのかが特定するまでそう時間は必要ではなかった。

「お~い、凛子ちゃ~ん」
「はっはっ…え?ハルトくん!?」

そう。凛子ちゃんが走っていた。体力作りだろうか?

「珍しいわね…こんな朝早くにハルトくんとばったり会うなんて。台風でも来るのかしら」
「凛子ちゃんいくらなんでも酷いよ…それよりこんな朝早くに走ってるなんて、いつもそうなの?」
「まぁね。まぁジョギングは朝練のウォーミングアップなんだけどね」
「えっそうなの?あ、そうか…」

実は我らがリーダー、凛子ちゃんのもう一つの顔。
凛子ちゃんは以前の学校では元・剣道部の主将だったのだ。
もちろん剣道の腕前はこの村一番、冗談のつもりで手合わせしてもらったことがあるが本気の俺が手も足も出なかった程だ。

「あっ、どうせならさ。ちょっと付き合ってよ。朝練いつも一人だから寂しいんだよね」
「いいよ、その代わりお手柔らかにね」

俺も凛子ちゃんの朝練に付き合うことになった。
ジョギングをしながら学校の体育館を目指す。凛子ちゃんの為に先生が特別に体育館の鍵を開けてもらっている。俺たちは息を切らしながら体育館へと入り物置から竹刀を取り出した。

「ふっ…ふっ…」

「おぉっ、さすが凛子ちゃん」

手合わせ前に凛子ちゃんが竹刀を振り身体を暖め始めた。
素人の俺の目でもわかる。
竹刀を持つ凛子ちゃんには一切無駄な動きが無い。
いつか、テレビ番組でプロが戦っている姿を見たことがあったけど凛子ちゃんも全く負けていなかった。

「さぁてと…準備は出来たわ」
「ん、もう良いの?よし…」

俺も竹刀を持ちブンブンと振り回す。
ちなみに俺は剣道なんてしたこともないし竹刀も凛子ちゃんと手合わせぐらいしか触る機会がない。つまり、全く経験がないのだ。

「ハルトくん、ルールはいつもどおり、先に一本入れたほうが勝ちよ」
「まぁ頑張ってみるよ」

もちろん、勝てる気は全く無い。
なぜなら…
「行くわよ……っ!!」
「ふっ…あいてっ!!」
「ふふっ!一本」
始まった瞬間に、勝負が着いてしまうからだ。

「痛てて…凛子ちゃん!」
「ごめんごめん、まぁ本気は最初だけだから。次からは手加減するわ」
「本当?じゃ、次行くよ」

俺はもう一度竹刀を持つ。
凛子ちゃんも同じだ。
この時ばかりは普段の凛子ちゃんを忘れてしまう。
手加減しているとは言っているがそれでも実力は俺を凌駕していた。

「ふっ!やっ!!」
「危なっ、はぁっ!!」

凛子ちゃんが何度も俺の足に向かって竹刀を振り下ろすが俺だって負けっぱなしは面白くない。最初は両手持ちで何度か防御するが次第に両手で扱うのが面倒になってくるので片手で竹刀を振り回しながら凛子ちゃんを攻めていく。
「ちょっとハルトくん、竹刀は片手で振り回しちゃダメだって」
「しょうがないでしょ、ルールあんまりわかんないんだし。我流だよ我流」
俺の動きは剣道…というよりはフェイシングに近かった。ただ、フェイシングもそこまで知らないが。竹刀を相手に振り下ろしてもガードされてばかりなので無駄だと悟った俺は片手で竹刀を持ち何度も凛子ちゃんの脇腹に突きをするという型へ自然となっていた。

「っ!ハルトくん、強くなったね」
「まぁこれでも成長してるから、ね!」

何度も凛子ちゃんの脇腹へ突きを繰り出すが全て流されてしまう。それと同時に俺の足に入れてくる。防御からの攻撃が完璧だ、俺には到底できないだろう。

「たぁっ!あ、しまった…」
「っ!!」

一瞬だが凛子ちゃんの両手が浮いて隙が出来た。
俺はこれを見逃さない。
全身の筋肉を唸らせて一気に脇腹へと突きを繰り出した…だが
「あまいっ!」
「痛だっ!!」
凛子ちゃんの瞬足の突きには勝てなかった。
脇腹に入れる一瞬で体勢を立て直し俺のがら空きの足へと振り下ろしたのだ。
あぁ、今日も一度も勝てずに終わってしまった。

「ふぅ…朝練はこれぐらいにしておこうかしら」
「痛ってぇぇ…凛子ちゃん強すぎ」


・・・


あと2時間もすれば次第に登校を始める生徒が出てくる時間帯、俺は体育館の入口で風に当たっていた。朝からハードな運動をしたために身体中が汗まみれだ。
すると、両手に水の入ったペットボトルを持って凛子ちゃんが俺の隣へと近寄ってきた。

「はい、これ。水分補給しときな」
「ありがとう凛子ちゃん」
俺は口を開けると一気に口の中へ流しこんだ。身体から消えてしまった水分が戻っていく。気がつくと全て飲んでしまっていた。

「ふぃ~生き返った。ありがとう凛子ちゃん」
「こちらこそ、ありがとうハルトくん。久しぶりよ?誰かと手合わせできるなんて。この村じゃ限られているからね」
「俺もそんなにできないんだけどね…」

凛子ちゃんの言うとおり、流石にこの村では凛子ちゃんほど剣道が上手い人なんていない。まともに手合わせ出来る人なんて運動神経が抜群な大人か俺ぐらいなものだ。きっと普段から剣道の腕前を他人に見せないのはそういうこともあるのだろう。

「寂しいんじゃない?そんなに上手いのにさ、この村じゃ自分の実力を試すことなんて限られてるし…たまにはこの村を出て大会とかに出場とかしてみれば…」
「それは無理よ…無理なのよ」
「えっ…」
「っ…まぁ、色々あったのよ」

普段じゃ絶対こんな表情は見せないだろう。
凛子ちゃんは、その発言と共にどこか悲しげな表情をしていた。

「ご、ごめん。そういうつもりじゃ…」
「気にしないで。これは私の問題だから」

凛子ちゃんは強い。
だから、弱いところを見せられてしまうとどうすれば良いかわからない。

凛子ちゃんがこの村に引っ越してきて早一年。
普段から一緒にいるけど彼女の全てを知っているわけではない。
実は凛子ちゃんがこの村に引っ越してきた理由は知らないのだ。
別に聞くまでの事ではなかったし、変に追求したら不快な思いをしてしまうだろうと思ったからだ。
だが、風の噂は自然に耳に入ってきた。

凛子ちゃんの父親は警察官、今もこの村の派出所で駐在している。
しかし、一部の人の話によると、凛子ちゃんの父親に問題があったらしい。
そしてこんな偏見な村に飛ばされた…というのだが。

「ハルトくん?」
「…あっ…」
「もうどうしたの?それより、そろそろ家に帰ったほうが良いんじゃない?私も汗流したいから風呂に入りに家に帰るけど」
「そうだね。俺もそうするかな。じゃ、また放課後、部室でね」
「えぇ、今日も部活動頑張りましょ!」

そうして俺たちは自宅へと帰ることにした。
作品名:Wizard//Magica Infinity −2− 作家名:a-o-w