二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

3.本能と言う名の建前で

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
アヤさんのストーカー事件から、3日が過ぎていた。




「ぅん、ナルホドね」
 ここ3日、事務所に居る間は殆どつけっぱなしのパソコン画面を見つめながら、呟いてみて、自分の声が掠れているのに気付く。
 疲れ、てるな。
 四つほど開いていたアヤさんのファンサイトの一つを閉じて、もう少し一般的な、無責任な意見の寄り集まる掲示板を開いてみる。
 イロイロと気になることが多すぎて、その間、ほとんどマトモに眠れていない。
 こうやって、パソコンと首っぴきで調べモノをしているせいもあるし、それだけでもないと言えば、ない。
 おかげで、授業中、叶絵に揺り起こされる回数が格段に増えてしまった。

 ネウロが、いけない。
 確かにネウロにとっては、もうこの事件なんて「我輩の舌の上」なんだろうし、結局は自分が並べ立てるトリックの詳細なんて、私に知らせる必要性はないものなんだろう。
 それでいて、謎かけみたいな言い方ばかりして。
 大切なことは何ひとつ、口に出してはくれないんだ。
「私には、何も言ってくれないんだから」
 考えていたことを口に出してしまって、文面のあまりの少女マンガ色に一瞬唖然とした。
 何、言ってんの私。
 追い討ちをかけるように、3日前に目にしてしまったネウロとアヤさんのキスシーンが、バックに背負った夕陽さえ鮮やかなまま思い出されてくる。
 逃げるように目を閉じると、更に映像がクリアさを増した。
「もう、やだ」
 自分の思考から逃避する先は、もう眠りの中にしかなかった。







「…さん、探偵さん」
「え?」
 優しく肩を揺らす指に、目が醒めた。
 目を開けると、そこには眠りに落ちる寸前まで眼裏に貼りついて離れなかった人の姿があった。
「アヤさん?どうして……」
 言いながら、そっとパソコン画面を盗み見て、真っ黒になっているのにホッとした。
 ファンページに公式ホームページ、関連掲示板まで開いているのが見えたら、アヤさんのことを調べているのなんてまる判りだ。いくらなんでもそれはまずい。
「ごめんなさい、ノックしても返事が無かったので、勝手に入らせてもらったわ。
 あなたに、会いに来たのよ」
 柔らかく微笑まれて、居たたまれなくなった。
 私には、逆立ちしたってこんなにキレイな笑顔はつくれない。
 だらしなく机の前の椅子に沈み込んでいたことに気付いて、体制を立て直す。
「ネウロにじゃ、なくてですか?」
 思わず零れてしまったのは、またしても嫌になるほど少女マンガチックなセリフだった。
「助手さんに?あら、どうして?」
 キレイな微笑みはそのまま、首が優雅に傾げられたのは、考えてみれば当たり前だ。
 依頼人にとって用事があるのは本来‘探偵’その人であって、助手ではありえない。
 だから、当たり前。
 当たり前のはずなんだけど。
「何だか、疲れてるみたいね」
 アヤさんの指が、私の頬に触れる。
 あのとき、ネウロの首筋をとらえていた指先が、今は私に触れている。
 お腹の奥のほうから、何か冷たいものが拡がっていく気がした。何か、冷たい暗いものが。
「貴女もやっと、そんな目をするようになったわね」
 その感覚は、じわじわと背中を這い上がり、頭のてっぺんまで突き抜けていく。指先の一本一本まで侵食し、腿を滑り、つま先までも支配する。
「私は、これを、待っていたのよ」
 そして、アヤさんの唇から知らない歌が流れ出した。




――さあ、目を閉じて 自分の中だけをみつめて
   何にも縛られることのない、素のままのあなたを
   きっとそこには ただ広い世界が待ちうけているでしょう
   きっとだれにも 知られずに居たあなたを見るでしょう
   こわがらないで 受け容れていい
   目をそらさずに 解き放てばいい




 目を閉じて、と歌声が耳に注ぎ込まれたとたんに、けれど私の目はアヤさんから逸らすことは出来なくなった。
 世界を魅了する歌姫、アヤ・エイジア。主だった曲は私も知っているし、以前にアヤさんが言っていた脳を揺さぶるための波長を含むメロディ、コード、リズムを有するせいなのか、アヤ・エイジアの曲は聴けば大体それと判る。
 けれど、今耳元で殆ど囁かれるようにして流れてくる歌は、いつも耳にするアヤ・エイジアの曲とは、少し、違うような気がした。





――さあ、耳を傾けて 自分の中の音だけを聴いて
   誰にも依る必要の無い、ほんとうのあなたを
   きっとそこでは あなたの知らなかった想いを聴くでしょう
   きっとだれにも 気付かれずに来た声があるでしょう
   こわがらないで 受け容れていい
   喉をふるわせ 解き放てばいい





「あ……」
 みつめたアヤさんの瞳に、私が映っている。
 知らない、あたしが映っている。
 何故だか、身体が震えている。奥底の冷えとは裏腹に、全体が熱くなってくる感じがする。
 半ば開いたままのあたしの唇が、アヤさんの名前を呼んだ。
「アヤさ、ん」
 震える指を、頬に添えられた掌に重ねる。





――こわがらないで 受け容れていい
   目をそらさずに 解き放てばいい





 もう、私には見えている。
 アヤさんの瞳に映るあたしが。今のあたしが、何を望んでいるのか。
 でも、いいの?本当にいいの?





――こわがらないで 受け容れていい
   喉をふるわせ 解き放てばいい





 注ぎ込まれる音たちが、あたしの背筋を粟立たせる。
 促されるように、あたしの指は、そっとアヤさんの掌から手首へ、さらにその先へと進み始めた。
「欲し、い」
 目の前のこの人が、今、欲しくて堪らない。





――余計な言い訳は 本能に負わせればいい
   望むままに生きて ほんとうのあなたで





 吸い込まれるように、歌声の紡ぎ出される唇に自分のそれを重ねた。
 欲しい。欲しくて堪らない。
 どうしてなのかわからない。
 ついさっきまで、出来ることなら近くで話すことすら避けたいほどだったのに。
 あまりにも自分の小ささを見せ付けられるばかりだから。
 わからない。どうしてなのかわからない。
 それなのに今、あたしは当のアヤさんの唇を貪っている。
 押し重ね、導かれるままに唇を開き、舌を絡め、あまつさえアヤさんの口内に侵入して口蓋に舌を這わせている。
 ぴちゃり、と撥ねた唾液の飛沫が、耳の付け根を濡らして、体温を奪われたその場所が全身を支配していた冷えを思い出させた。
 こんなにも、熱い。
 紅潮する頬も、両足の間も、熱くて堪らない。
 それなのに、身体の芯が凍るほど冷たい。




 わからない。
 そう、わからないから。もう考えるのは止そう。
 これは、本能の故の行為。欲しいと思ったから。だから、求めているだけ。
 応えてもらったから、続けているだけ。
 気持ち良いから、きっとこれは悪いことじゃない。
 そのうち、熱さも冷たさも、ただの快感にすり替わって。
 あたしは再びゆるゆると眠りに落ちていった。





「あなたは素直ね、本当に」
 そんなアヤさんの言葉を聞いたような気もしたけれど、よく、判らなかった。