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Can Go Anywhere

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 宿を一人出てきたときから、頭の中でずっと大きな警鐘が鳴っていた。ぐわんぐわんと一際大きくなったとき、覚悟を決めてばっと後ろを振り向いて、既に唱えていた魔法を指先ごと向ける。しかし、そこには誰もいない。舌打ちする前に何かが首筋に触れて、鳥肌が立った。
「さすがですね、リナさん。相変わらず容赦ないですが」
 いつも持っている杖を首筋にあてられ、目線だけで後ろを見る。月夜に照らされたその顔はゼロスだった。
「ふん。気配殺してあたしに近づく奴なんて、大概ロクでもない奴よ。その時点で、もうあたしの頭の中には“情け”なんて言葉はないわ」
 それになんとなくだが、ゼロスではないかと思ったのだ。魔族のゼロスは本当にいつでもあたしなんか殺せる。そんな相手に手加減なんてしてられない。
「そんな言い草は酷くありませんか?僕はリナさんにはすごい優しくしてきたつもりなんですが」
「どこがよ。大概あたしたちはあんたと会ったら、騙されてる気がするんだけど」
「そうでしたっけ?少なくともリナさんは、なかなか騙されてくれなかったですよ」
 それはそもそもあんたを信用していないからだと知っているくせに、何を白々しい。笑ったままのあの口を引っ張ってやりたい。
「ところでリナさん。こんな夜中にどこにお出かけですか――しかも、たったお独りで」
 どうやらこれが本題だったらしい。いつもながら回りくどい奴だ。 
「散歩よ、散歩」
 何でもないふうに装ったが、自分でもあまりうまくできた自信はない。実際、効果はなかったらしい。いつの間にかゼロスが目の前にいて、気付いたときには抱きしめられていた。言われなくったってわかる、これは完全な嫌がらせだ。
「離しなさいよ、変態獣神官」
「本当に酷いですね。でも僕はリナさんの身体、結構好きですよ?小さくてすっぽり収まってくれるところか。胸はありませんが」
「とりあえず、一発殴らせてくれるかしら?」
 奴の言葉ではないが、ゼロスのマントにくるまれてしまったあたしはひどく小さい存在のように思える。ゼロスは決して筋肉質なわけではないが、やはり人間の男の形を取っている以上、自分とはちがう作りをしていることが嫌でもわかる。そう思うと、今更ながら緊張してきた。あたしの身体が急に固くなったのをゼロスは気付いたのかわからないが、全く離そうとはしない。あたしの気持ちに気付いて、サディスティックな気分になっていそうだ。真っ黒なマントの中にいると、取り込まれてしまいそうと思ってしまうのは冗談でも笑えない。
「雑談はともかく――それで、本当にいいんですか?いつものあなたなら、何が何でも皆さんを巻き込んでいくでしょう?」
 確かに今まではそうだったが、それは勝機があったからだ。あたしがしているのは、文字通り命の取り合いだ。それにガウリイたちは付き合わせているのだから 、あたしには勝つ責任がある。もちろん彼らも覚悟しているだろうが、だからといって彼らを勝機もない殺し合いに巻き込んでいいわけがない。それに、どうやらあたしが思っているよりもあたしは彼らのことが大事なようだから。
「……いいのよ。これはあたしが何とかしなきゃいけないんだから」
「お独りで、ですか?リナさん、独りは怖いですよ?」
「あら、ゼロス。あたしは独りなんかじゃないわよ」
 少し身体を離して、闇色の瞳にあたしの姿を映してやる。いつもの細められていて見えない瞳がある。ああ、この瞳は嫌いじゃない。
「あたしの周りには風のお姫様がいつも踊っているし、大地はあたしをずっと支えていてくれる。空だっていつも笑ってる。何より、降り注ぐ光があたしを照らしてくれる。これのどこに、あたしが独りだという要素があるわけ?」
 ああ、楽しい。いつも表情を変えない奴の目を揺らがせるのは。普段開けない目は今、しっかりあたしを捕らえている。
「そ・れ・に!――あんたもいるんでしょう?闇のようにひっそりと」
 最後は耳元で囁いてやる。力の抜けた腕を振り払って(やっと離れられたのを内心ほっとしているのは秘密だ)、挑戦的な笑みをする。
「ついてきなさいよ、ゼロス。あんたならついてきてもいいわ」
「・・・・・・はあ、さすが“ドラまた”ですね」
「何か言ったかしら?」
「いいですよ、リナさん。僕はあなたの闇としてどこまでもついていきますよ」
 そう言うと、ゼロスはしゃがんであたしの手の甲にキスをする。さっき抱きしめられたばかりで今更だが、何だか急に気恥ずかしくなって慌てて手を引っ込めて後ろを向く。
「その言い方、あんたストーカーみたいよ」
「照れ隠しとは、リナさんも可愛いとこありますねー」
 ひねくれた言葉ももう通用しなかった。
作品名:Can Go Anywhere 作家名:kuk