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らんぶーたん
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小説インフィニットアンディスカバリー第二部

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「そうね……。さあ、私たちもがんばらないと」
 月の鎖を斬ってしまえば、天災に見舞われることも減るし、モンスターに襲われることも無くなっていくだろう。そういった負の状況に直面して一番困るのは、力のない新月の民であることは疑いない。それがわかっているから、アーヤも心配なのだ。次の目標となる鎖はまだ決まっていないが、早く斬るに越したことはない。戦いになるのは嫌だけど……。
「カペルくん、アーヤくん。そろそろ行くよ」
 ユージンに呼ばれる。当面の目的地はケルンテンの宿屋だ。


 ケルンテンの街並みはフェイエールのそれと対称的だ。
 過酷な環境には変わりないが、ケルンテンの過酷さは寒さにある。鈍色の雲と降り積もる雪。肌を凍てつかせる冷気が切るような風にのって押し通り、カペルは思わず自分の腕を抱いて身を震わせた。
 積雪対策の尖った屋根が林立する様は、肌を切る冷たい風と相まって、神殿めいた荘厳な印象と同時にどこか近寄りがたい印象を見るものに与える。それは住民の印象とも重なり、開放的だったフェイエールや牧歌的なブルガスのそれとも異なる、都会の匂いがこの街にはあった。
「ずいぶん寂れているな……」
 崩れ落ちたままにされた石像の残骸を横目にエドアルドが言う。
 同意見だった。
 この生気が抜け落ちたような印象は、いったいどこからやってくるのだろうか。凍てつく寒さから、とは少し違うような気がする。どこかで感じたことがあるような気もするが、はっきりとは思い出せない。
 漫然とした思考に気を取られ、前方を確認していなかったカペルが悪い。不注意から、すれ違おうとした少年とぶつかってしまった。
 こけてしまった少年を起こそうと手を伸ばすと、
「大丈夫?」
「気をつけろよな!」
 その手を少年にはたき落とされた。
「ごめんなさい」
 カペルが謝ると、少年は少し意外そうな顔を見せた。そしてにやりと笑ったかと思うと、猫を思わせるしなやかさで立ち上がるなり走り出した。
 まるで逃げるように。
 一応、謝りはしたし、それに相手が答える気がないのならそれでもいい。あっけにとられながらもそう思ったカペルがその背を見遣っていると、すれ違いざまにドミニカが少年をつまみ上げた。やっぱり猫みたいだ。
「何するんだよ!」
「返すものがあるだろう?」
「ね、ねーよ、そんなもん!」
 余裕の笑みを浮かべると、ドミニカはカペルの方を見て言った。
「ぼうや、懐が寂しくないかい?」
「えっ……、ああ、財布がない!」
「し、知らねえよ!」
 そう言いながらも慌ててしまったのだろう。少年の手元からぽろりと何かがこぼれ落ちる。
「あっ、それ僕の」
「……」
「ちょっと宿まで一緒に来てもらおうか」
 確かな物証に観念したのか、少年はドミニカの言葉にうなだれたまま頷いた。


 国家としての交流もほとんど無かったから、アーヤがケルンテンに来るのは初めてだった。
 フェイエールの生活はひたすら暑さと乾きとの戦いだったけれど、ここは真逆だ。
 宿の部屋には暖炉があった。スリの少年のことがあるものの、アーヤは我慢できずに暖炉の前に陣取ってしまう。もっと厚着をしてくればよかった……。
 隣にはカペル。
 財布を盗まれた張本人だというのに、何故かのほほんと暖を取っている。何度怒ってもこの緊張感の無さはどうしようもないらしく、ドミニカが「どうするんだい?」と尋ねるのにも「まあ、いいんじゃない。財布は返してもらったわけだし」なんて答える調子なのだから、怒る気も失せてしまう。
 まあ、それがカペルのいいところでもあるんだけど……。
 だから、ちょっと茶化してやりたくなったりもする。
「大して入ってないしね」
「ひどいなー、アーヤ」
 口を尖らせる様子はまるで子供だ。見た目はシグムント様とそっくりだというのに、何だかそのギャップがおもしろい。
「あんたたち、もしかして解放軍かい?」
 スリの少年が唐突に言った。
「そうだよ」
「カペル!」
 何も考えずにカペルがカペルのまま答えてしまう。あれほど口を酸っぱくして「あなたは光の英雄だ」と言っているのに……。慌てて顎を引いて言い直しているが、
「そ、そうだよ」
 貫禄も何もあったものじゃない。フォローするとは言ったけれど、先を思うと頭が痛かった。
「はぁ……」
「ふーん、なんだか事情がありそうだね。光の英雄も聞いてた印象とは少し違う気がするし」
「ぎく……」
「で、ケルンテンにはどういう理由で来たんだい? 今ケルンテンには月の鎖はないはずだけど。そうすると、もしかしてハルギータにでも行くのかい? それともカサンドラの方かな。たしかあっちにも月の鎖があったはず。でも今はカサンドラ方面の道は通れなかったような……」
 まくし立てるように言う少年の目がやたらと輝いて見え、アーヤはそれに少し気圧されてしまう。
「ず、ずいぶん詳しいのね」
「おいら、情報屋だからね」
「スリじゃなくて?」
「そっちは副業だよ、副業」
「……副業でもどうかと思うけど」
「で、どっちに行くんだい? ハルギータ? それともカサンドラ?」
「ハルギータだよ」
 またカペルがしれっと言ってしまった。それにアーヤが突っ込むよりも早く、少年が身を乗り出した。
「じゃあコバスナ大森林を通るんだよね。それならおいらもついて行くよ」
「えっ?」
「コバスナ大森林を通るなら道案内が必要だろ」
「大丈夫よ、ハルギータ出身の人もいるから」
「大丈夫なもんか。最近のコバスナは少しおかしいんだ。一ヶ月もすれば森の様相は一変する。最新の情報を持っている道案内がいなけりゃ、迷ってのたれ死ぬのが落ちさ」
 コバスナ大森林は、世界最大の樹海だ。その深奥に建設された城塞都市がハルギータで、たどり着くためには必ずコバスナ大森林を抜けなければならない。
 迷路のように入り組んだ構造は、戦時においては守るに適した天然の要塞となるが、平時は交通の妨げ以外のなにものでもなくなってしまう。そんな樹海が今、不気味な変化を見せていると少年は言っている。
 やはり月の鎖の影響なのかしら……。
「ふーん、そうなんだ」
 そんなアーヤの心配もよそに、カペルは暢気なものだ。
「兄貴—、緊張感無いなぁ……」
「よく言われます」
 こればっかりは少年の意見にまったく同意見。のんびりしたカペルの受け答えに、頭をもたげた緊張感も霧散してしまう。エドなんかはもう話も聞かずに窓の外ばかり見ている。ちょっときつくあたりすぎたかもしれない、とそれを見たアーヤの胸がちくりと痛んだ。
「おいら、ヴィーカってんだ。よろしくな」
「でもどうして僕たちに協力を?」
 にやりと笑ったヴィーカが全員を舐めるように見回す。そして人差し指をピンと立てて言った。
「兄貴たちからは金の匂いがする。おいらの鼻がそう言っているんだ」
「金、ね……」
「兄貴の財布には期待してないよ、へへへ」
 カペルが胸のポケットに入れた財布を隠そうとすると、ヴィーカは無邪気に笑ってそう答えた。
 悪い子ではなさそうだ、と思える笑顔だった。被害者本人がいいと言っているし、それどころか兄貴と呼ばれるほどになつかれている。道案内が必要ならこの子でもいいのかもしれない。