二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

manjusaka

INDEX|17ページ/17ページ|

前のページ
 


 ―――アテナ エクスクラメーション

 影の闘法。禁じ手。聖闘士ならば、知らぬわけではない。封印されたその技が最後に使われたのがいつの時代かも定かではないほどの忌み技はすさまじい威力であることには違いない。黄金聖闘士が究極に高めた小宇宙によってできる攻撃。凄まじい破壊力をその細身に受けるというのかシャカは。それを放てと示唆するシャカは傲慢なのか、それとも死に急いでいるのか。

「あれは……あの技だけは……」 

 懸念したことが実際に及び、激しく動揺した。潔いまでに突きつけられたシャカの命の選択。覚悟をしたはずの信念が揺らぐ。だが、サガは一度たりとも迷うことはしなかった。まるで、最初からそれを望んでいるかのように。そしてシャカもまたその背を押し、焚き付けているようにしかみえなかった。
 時折、微風のように過ぎるノイズが混じる。サガとシャカの間だけで交わされている念話に気付く。なにを語り合っているのかは不明だ。二人の間にあったであろう因縁の決着のために交わされているのだろうと推測する。
 渋るシュラとカミュをアテナのためにと強い思いで説き伏せたサガに合わせて、最後の一手を打ち遂げようとするシャカに向かって解き放たれた三人の小宇宙は壊滅的な破壊を齎した。
 あの瞬間、シャカは確実に五感目を剥奪することが可能だったはず。にもかかわらず、その拳を止めた。甘んじてアテナエクスクラメーションを受けたとしか思えなかった。
 何故だ―――最大の疑問が生じた。
 残された最後の感覚をそれぞれが研ぎ澄まし、消滅したはずのシャカの姿を追う。命の兆しは感じられないのに、なぜシャカの姿はこうもはっきりと捉えることができるのか。死してなお『在る』ことができるシャカの意識の強さに心底驚愕し、ぞっと震えながらもその儚くも凛とある美しい佇まいに目が奪われる。
 サガも息を呑み、シャカを見つめていた。思わず発したのだろう、サガの小さな心の囁きが聴こえる―――天上の花だ、と。
 緩やかに舞う黄金の髪が淡い光の粒子を放ち、シャカを包む。古の墓標を前に青白い燐気を纏った幽鬼のようなおぞましすら感じたシャカとは同一の者とは思えぬほど、沙羅双樹の狂い散る花弁とともに美しい光景を織り成していた。
 沙羅双樹の木の下で座すシャカ。死してなお留まり続けるのは酷なことだ。断ち切ることができないのならば、せめてもの情け、介錯のひとつでもくれてやろうと手刀を振りかざしたが。

「やはり―――」

 すべてを全うしたシャカが淡い光を放ちながら、塵と化していく様を目に焼き付けた。壊れたはずの胸の鼓動がアンバランスに打ち、痛みを発した。
 澄み切った夜空。
 遠く高く、どこまでも果てなく続いていく星空になぜだろう……目頭が熱くなり、涙が浮かび堕ちていく。恐らくは三人とも胸の深いところで生じる激しい痛みに耐えていた。

「行こう―――じっとしていても始まらない」

 目的も目標も明かすことはできない。けれども、先に進まなければという焦燥に駆られて、女神へと繋がる血の道を歩み始めた。
 残る草花をかき分けて進み続ける。サガだけが一人遅れた。

「サガ?」

 シャカが手にしていた数珠を拾い上げようとしゃがみ込んでいたはずのサガだが、そのまま膝をついたまま微動だにしないのだ。視覚を奪われることのなかったサガにだけ何かが視えているのか。小宇宙をわずかに高めて窺おうとするが、何もかんじなかった。

『どうしたんだ、サガ?』

 カミュも訝しんで念話で語りかけるがサガは答えず、その場でしばらくとどまっていたが、ようやく数珠を拾い上げたサガは立ち上がり、こちらに向かってきた。先程までは哀しみ打ちひしがれていたはずのサガの小宇宙が今は驚くほど穏やかで、温かく、そして透明なものとなっているのに気付く。まるでそう――浄化されたように。

「何かあったのか?いや、何をしていたんだ、サガ」

 サガへの違和感を問い質そうとするが、うっすらと笑んだらしいサガは「なにも」と告げるに終わった。それ以上尋ねることもなく、シュラもカミュも沙羅双樹の園と処女宮を隔てる扉の前に集結する他の黄金聖闘士たちの小宇宙の存在に気付き、再び意識を集中しはじめた時、ほんの少しサガは振り返り、かろうじて破壊を免れた沙羅双樹の木の下に視線を向けていた。淡く輝きを放つ小さな幻にサガは目を細める。
 じゃらりとサガが大事そうに手にしていた数珠をぎゅっと握りしめ、愛しげに口づける。視覚を剥奪されたシュラやカミュには知る由のないことだ。サガのささやかな行いを咎める者など、その場にはいない。
 ただ夜露を帯びた風が沙羅双樹の園を吹き抜け、花弁は慰めるように優しく舞ったのだった。






Fin.

作品名:manjusaka 作家名:千珠