すね毛萌え。
空港前まで車をつけてくれていて。
私は助手席に座り車を走らせ始めたサディクさんの横顔に、
この人が好きなんだな、と再認識する。
「どうしたんでぇ、急によぉ」
「サディクさんに会いたくて。」
会えたことの喜び、色褪せることを知らないときめき、
・・・あと、少しのイタズラ心を抱えて、
前を向いたまま話しかけてきた彼の逞しい腕に抱きついた。
その衝撃に、大袈裟にタイヤが悲鳴を上げる。
「バッカ危ねぇだろぃ!運転中に腕を掴む奴があるかってんだ!」
一瞬こっちを向いて、赤くなって、驚いた顔。
私の友人たちより、赤くなっているのかは判りにくいけど。
「ふふっ、そんなに怖い顔しないでください」
照り焼き丼を作って、そう言えば丼ものばかり作っているな、なんて思い笑ってみたりして。
二人きり、甘い時間を過ごしていた。
最近あった面白かったこと、
最近のマイブーム、
友人たちの奇行と笑い話、
話は尽きない。
私が話すばかりだけど、こんな感覚、久しぶり。
友人たちとでは味わえない、指先の甘い痺れ。
抱き締められて、震える胸。
もう我慢が出来なくて。
「あ、あの・・・お風呂に入って来てもいいですか?」
「んん?エッチしたいですってかぁ?」
「もっ、もぉっ違っ・・・わないですけど!
そんな、そんなに直接的に言わないでください!」
へらへらと笑う彼に私の顔が熱くなるのが判る。
もう私の顔は真っ赤だろう。
「ダメだ」
「えっ?」
「菊の匂いが薄れちまうだろ?もったいねぇよ」
「意味判りません・・・私おとといからお風呂に入ってないんですよ?」
理解し難い感覚だ。
フランスの有名な皇帝ナポレオンも、妻に同じようなことを言ったそうで。
「一番イイ感じのところじゃねぇか」
疲れてくたびれ果ててイライラしてるドイツさんに犯されるのが好き、なんて、
変態チックなことを、イタリアくんも言っていたっけ。
「・・・はぁ。もう、そういう文化なんですよね。」
もう諦めます。小さく呟いて、私は羽織を脱ぎ始めた。
「イイねぃ、色っぽくぬぶほっ」
投げつけた羽織で言葉は防げたものの、ニヤニヤは防げなかった。
疲れた・・・
久しぶりの情事、濡れ場、セックスに、私の体は睡眠を求めている。
そんなに年だって変わらないはずなのに、どうしてこんなに元気なんですかね。
何度も求められて、
嬉しいと思う反面勘弁してほしいと思い、
どうしたらいいか判らなくなって私は泣いてしまった。
泣き出した私に、サディクさんはとても優しくて・・・
そんなに好きにさせないで、そう思ってしまった程だった。
「・・・眠ってますね・・・うふふ」
シャワールームのカミソリ、無防備に出された逞しい脚。
今の今まで、好きにさせたのだ。
私だって好きにしても、いいはず。
シェービングクリームを塗りつけて、
カフェオレ色の肌を覆い尽くす脛毛、それに、ゆっくり・・・
「あぁ〜っダメ!ダメっ私!私の根性なし!」
刃を出さずに剃ろうとしていたことに気づき頭を振る、
もうドキドキが止まらない!
聞こえるイビキに安心しながら、きちんと刃が出ていることを確認して、ゆっくり・・・
じょりじょりじょり・・・
あ〜っもうダメ私!私って最低!変態!
カミソリの刃の幅だけ、濃い脛毛がつるりんと剃れている。
そのことに喜んで、第2撃を食らわせようとして、
「なぁ〜にやってんでぇ、菊?」
気づかれた。
油断し過ぎていた。
ニヤニヤと笑うサディクさんの顔、でも目は座ってる。怒ってる。
カミソリを握る手を掴まれ、私は抵抗出来ないでいた。
「何してんだ?説明しろや」
「あ・・・あ、あの・・・ちょっと・・・イタズラを・・・」
へらっ、と、笑って見せる。
サディクさんには何となく、甘えたくなってしまうから。
「悪いイタズラだなぃ菊。俺ぁこれでもチビの面倒を見たことがあってよぉ。
悪いことをしたらお仕置きってのが基本なんだ。
判るよな?」
「わっ、悪いことなんてしてません!」
しかし私は甘える、ということが上手に出来ないらしくて。
「寝込み襲っといてか?」
「うぅ・・・」
「お仕置きだな。あぁそうでぇ、こういうときは何て言うんだ?菊?」
「・・・ごめんなさい・・・」
「誠意が伝わらねぇなぃ」
「・・・許して、ください・・・代わりに、私を・・・好きにして・・・?」
恥ずかしい言葉を口にして、ようやく笑ってくれた。
「よしきた」
カミソリを放って、私を上に座らせて、下からニヤニヤと見上げてくる。
もしかして、これを言わせたかったがためにふて寝をしてた、だったりして。
けどもうそんなの、どうでも良かった。
抱き締められた強い腕に、私は気持ちまで犯されてしまっていたから。
「しっかしどうするんでぇ、これよぉ」
朝日の中でつやんつやんに光る剃り跡、それを眺めサディクさんが困っている。
「パンツを履くんですから、関係ないでしょう。」
フラフラする体で、感覚だけで朝ごはんを作る私は、
イタリアくんとドイツさんのようにはいかないなと思った。
サディクさんは私より何枚も上手で。
私はいつも、この人に都合のいい行動を取ってしまう。
今回は、その反抗?反抗する気持ちなど産まれたことはないのだけど。
「んな訳にゃいかねぇよ・・・見られりゃ笑われちまわぁ」
そう言いながら手招きされて、私は目玉焼きの火を止め彼の目の前まで行った。
「何だって、こんなことしようと思った?」
「・・・イタリアくんが、ドイツさんに同じようなイタズラしたんですって。
そのときの反応が面白かったそうで、つい・・・真似したくなって・・・」
私が動機をそう話すと、サディクさんは大仰なため息をついて、
「野郎も苦労してんなぁ。」
と呟いた。
「ぜん「全部剃られるよりはマシだぁな、おノロケネタにでもすっか。
いちいち菊がやったって言って回るからなぁばーろぃ」
全部剃っちゃいましょう、って言いたかったがそれは阻まれて、ちょっと悔しい。
「そんなことして、イギリスさんとかにキョーレツに嫉妬されても知りませんからねっ!」
プン、と顔を背けてみるが、
「菊が、って言いふらして回るんだぜぇ?
ひでぇ目に遭うのはおめぇだよ、菊」
何をしても、私はこの人に敵わないようで。
サディクさんの胸に抱きつき私は降参した。
「酷い目に遭ったら、守ってくださいね?」
「あたぼぅよ」