Monster Hunter Another
ユクモ村。
山間の谷から湧き出る温泉で栄えた村。
今まで専属のハンターはいなかったが最近になってモンスターが多く出没するようになったため、急遽ギルドがハンターを派遣した。
――――――それが俺だ。
『レックス』。ラテン語で王を意味する単語。それが俺の名だ。
年は十五。まだまだ尻の青い新米ハンターだ。本来はロックラックで経験を積むつもりだったが、村が危険にさらされていることを知り、はるばるユクモ村に帰ることになった。
そんなこんなで俺は今、ガーグァの荷車に揺られユクモ村に向かっている最中だ。
俺の隣にいるアイルーはオトモのレイ。ネコバァの紹介でロックラックで出会ったアイルーだ。普段はおしゃべりなのだが長旅で疲れているのかスースー寝息を立てている。
「お客さん、あとちょっとで着きますニャ」
口を開いたのはガーグァを操り荷車を運転しておるアイルーだ。彼(?)はガーグァを背中を植物のツルでできた鞭で弾くと、荷車が少し速度を上げた。
――――――ポツ
どうやら雨が降りだしたようだ。頭にかぶっている『ユクモノカサ』が雨に濡れている。
「ニャ、レックス。雨が降りだしたニャ」
どうやらレイは冷たい雨で目を覚ましたようだ。
「ああ、本降りになる前にユクモ村に着けるといいんだけど……」
言った直後だった。『ポツ、ポツ』と降っていた雨は突如『ドバァァアアア!!』とバケツをひっくり返したような大粒の雨に変わった。
「お客さん、ちょいと飛ばしますニャよ!」
運転手のアイルーはそう言った直後、荷車は更に速度を上げた。
俺は風に『ユクモノカサ』を飛ばされないようにしながら、振り落とされないようにしっかりと荷車のへりを掴む。
「レイ!しっかり掴まってないと振り落とされ」
言いかけた時だった。
――――――俺たちの乗った荷車を落雷が襲った。
凄まじい電流を喰らった俺は荷車から振り落とされ、崖の下へと落下した。
「ぐ……」
左肩を強く打った俺はうめき声を発し、何とか起き上がろうとする。が、左肩に走る激痛の所為で起き上がることができない。
俺は必死に目で暴走する荷車を追いかけるが、それを『何者か』が阻んだ。
この大きなシルエット。まさか……
「大型モンスターか!?」
その『何者か』は俺に気付くと、触れただけで皮膚を裂かれそうな爪を携えた前脚を、俺目掛けて振り下ろした。
「この……!!」
俺は何とかその一撃を右に転がって回避した。
直後、ゴッという轟音が俺のすぐ横で鳴り響く。強靭な前脚の一撃で、地面が抉られていた。
あまりにも強大のその力は、地面だけでなく俺の精神も確実に抉った。俺は大型モンスターの恐ろしさを理解しているつもりだったが、それさえ甘かった。恐ろしいなんてもんじゃない。
死がすぐ隣にいるという恐怖が俺を支配する。体が思うように動かない。もう死ぬのかな、とか思った時だった。
『おいどうした?もう根を上げるのか?』
『まだだ!!っていうか父さん大人げない!!大体俺はまだ子供なのに父さんはいっつもそうやって本気だしてえ!!』
『こんなんでギャーギャー騒いでるようじゃお前もまだまだガキだなあ』
これは走馬灯か……じゃあもう俺もう死ぬんだな……
そういえば昔は父さんともよく遊んだな。あの人は立派な大人のハンターだったのに子供の俺にも全然容赦しないぐらい負けず嫌いだったな。
『何だとお……今に見てろよおおおお……』
『お!イイ目つきだな。もういっぺんかかってこい!』
こんな死に方じゃ、『向こう』で父さんに笑われちゃうな。
ガキィ!という音が辺りに響いた。人間の体がグシャグシャになるのとは明らかに違う音。
いつの間にか、俺は背中から武器を抜いていた。『ユクモノ太刀』。ユクモ村で厄除けになると伝えられている赤を基調とした太刀。柄などの部分にはユクモ村原産の『ユクモの木』、刃の部分には『鉄鉱石』が使われている。
俺は『ユクモノ太刀』の細い刀身をを盾のように使い、攻撃を防いだのだ。本来太刀は刀身が細いため、ガードには向かないのだが、この際四の五の言ってられない。
左肩を負傷した状態で地面をえぐるほどの一撃を受け止めきれてしまったことに俺は驚きながらも、そのままころんと転がり、攻撃の範囲外に出た。
そして幸いにも、制御を取り戻したガーグァの荷車が猛スピードで走ってきてくれた。俺はそれに飛び乗り、そのまま『何者か』を置いて走り去った。
荷車は先程よりも速度を上げ、どんどん『何者か』から遠ざかっていく。
一方その『何者か』は蒼白い雷光を身に纏い、嵐の中心へと凄まじい咆哮を放っていた。
そして、嵐の中心は不気味に紫に光り輝いていた。
To be continued
作品名:Monster Hunter Another 作家名:Rex