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愁いの花  第三章 約束

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淀んだ雲に覆われた空から、白く射し込む窓の光。
物音一つしない、本やゲームがひっそりと身を置く部屋の中で、少年と少女がベッドの上にいた。
突然の状況に、二人は石のように硬直していた。
冬実は閉じそうな目を開けた。
間近にスタズの端整な顔と広い胸板があった。
三白眼気味の血のような紅い瞳、唇から微かに覗く獣のような牙。
その姿は、まるで自分を惑わせた夢の影のようで。
ああ、その牙で私の首を-。
「あ、ごめん。」
いつも無遠慮な態度をとる彼だが、さすがに気まずそうに身を退けようとした。
その時、ほっそりとした二の腕がスタズの首に回された。
控えめな性格の少女の大胆な行動に、少年は戸惑う。
少女の甘い香りが、少年の頬に、鼻梁に流れて漂う。
「お願いです。約束して下さい。」
冬実の、か弱い腕が震えていた。
「どんなに過酷な戦いでも、最強の敵が現れても、決して負けないで。」
白い手に少し力が籠る。
「スタズさんが私を守ってくれるように、私もスタズさんの支えになりたい。」
私利私欲のない、硝子の鈴を振るような優しい声音は、スタズの心に確かに響いた。
「だから、どこへ行っても必ず私の元へ帰って来て。お願い・・・!」
魔界全土を揺るがすアキムの脅威は、最早スタズと冬実を戦いの渦へと巻き込んでいた。
悪鬼との対決が激化する事を少女も心得ていた。
(不安にさせているのか?)
冬実の心を察し、暫く動かないでいたスタズが口を開いた。
「心配するな。俺の能力は何度も目にしたはずだ。俺がそう簡単に遣られるとでも思うのか?」
「いいえ・・。」
「遣られたら遣り返す。それが俺の主義だ。アキムの野郎、今度会ったら三枚に下ろしてタタキにして、シャリの上に乗せてやる。」
いかにもスタズらしい言葉に、冬実の愛らしい口元が緩み、少し体の緊張が解れていく。
「だから俺を信じろ。お前を一人置いて消えやしねえよ。」
少女の唇から、熱く甘い吐息が漏れる。
「苦しいのか?」
スタズは身を起こして冬実の様子を窺う。
「いえ・・大丈夫です・・・。」
「そろそろだな。今、血を・・」
「待って、まだ平気です。本当に大丈夫ですから・・・。」
血を吸えば吸うほど、スタズの魔力が吸い出され、彼が衰弱するのを恐れているのか。
「受け入れろ。己の運命を。」
冬実の小さな顎に右手の指をかけて上向かせ、スタズは自分の唇を白い刃のような牙で噛み切った。
たちまち鮮血が溢れ、朱の一筋が唇の端を伝う。
そう、それはまさに吸血鬼そのもの。
「・・・・・!!」
彼の本来の姿を垣間見たように思えた瞬間、いきなり冬実は唇を塞がれた。
「ん、・・ん・・・!」
初めて男の雄々しい唇に重ねられ、少女は驚愕に目を見開く。
やがて入り込む炎のような熱い舌が滑らかな口腔をねぶり、甘美な血を注いでいく。
一度知った血の誘いは、蜜の味と同じ。
冬実の目が閉じていき、体から力が抜けていく。
少年の力強い両腕が、少女の柔らかい体を抱きしめた。
骨が軋むほどの強い力で抱かれ、逃れられない。
どくどくと流れる熱い血潮は、白い喉の奥へと吸い込まれていく。
「ん・・。」
だんだんと冬実の唇から甘い声が零れる。
少女の熟れた実のような唇を感じながら、可愛い口の中を愛撫するように長く妖しい舌を蠢かせる少年は、どこか興奮しているようだった。
少年の何かを感じ、少女もまた震える手を汗ばんだ逞しい背に伸ばした。
厚く引き締まった胸板に少女の温かく、ふくよかな胸が押される。
二人はこの時初めて、お互いの脈打つ生命の鼓動を感じた。
乱れたスカートの裾から、しなやかな白い足が露になる。
少女の殻を破り、女の艶やかさを開花しつつある冬実の細い足にスタズの足が重なる。
強く抱き合う二人は、まるで一つになるようだった。
頭の芯が痺れ、何も考えられなくなる。
ただ、触れ合うこの時間がとても幸福な気持ちになるようで。
それが愛だと言うには、あまりにも深く想いの籠った熱い口づけ。
永遠に続くと思われた行為は、スタズの唇がそっと離れた時に止まる。
血に濡れて光る舌が、赤い一筋の糸を引いた。

スタズさん、あなたになら私の血を・・・。

薄れゆく意識の中で、冬実は彼への想いを馳せる。
微かに熱い息を吐きながら、口の端の血を手の甲で拭ったスタズは、冬実の美しい姿を目にした。
冬実の唇がルージュを引いたように紅く染まり、その艶めかしさにスタズは息を飲んだ。
水を得て瑞々しく咲く花は、時には悲しく、時には優しい花びらを広げて人の心を包み込む。
この少女も目を開ければ、穏やかな微笑みを見せるだろう。だが、繊細な心はいつ折れるか分からない一輪の花。
「冬実、俺は・・」
安らいだ表情で眠る冬実の頬にかかる髪を指で隅に寄せながら、スタズは寝顔を見つめた。
「お前に生きてほしいんだよ。」
何故この娘に執着するのか。魔族とは違う何かを持っているからなのか。
その答えは未来にある。
どんな事があっても、この少女を守り抜いてみせる。
新たな決意を胸に、スタズは冬実の額に唇を落とした。
そんな二人を見守るかのように、花瓶の赤い薔薇の花びらが一枚、緩やかに舞いながら白いテーブルに落ちていった。

(終わり)



後書き

この小説では、思春期の少年と少女の心の動きを書きました。
異性を意識する事があっても、それが恋かどうか分からない。
そんな経験が誰にでもあると思います。
まさにスタズと冬実が、そうなのでしょうね。
給血は別のやり方もあるかなと思い、少し官能的にしてみました。
このお話の続きは構想としてありますので、いずれは載せてみたいです。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
作品名:愁いの花  第三章 約束 作家名:rena