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虹のふもとには、

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「確かにタツヤは東京に来るっていうから家に呼んだ。だけど、だけどな、」
 そこでタイガはソファでくつろぐ彼をびしっと指差した。
「お前を呼んだ覚えはないぞ、黒子オォ!!」
「失礼な。僕はちゃーんとお呼ばれしましたよ?」
「そうだよ、タイガ。オレが呼んだんだよ?」
「なんでだよっ!!」
 ばんっ、とタイガがテーブルを破壊しそうな勢いで叩くので、どうどうと二人で落ち着かせる。
「なんでだよ!なんでお前の家でもねェのに、勝手に黒子呼んじゃうの!?」
「え、火神くん。まさか僕には知られたくないことでも…!」
「ほとんど毎週やってくるお前に今更隠すもんもねェよ!」
「そうですよね、あんなものやこんなものももう発見しちゃいましたしね」
「うわー、タイガったらむっつりー」
「ちょ、」
「知ってますか、氷室さん。火神くんったらごにょごにょなものが」
「へえ、そうなのー。あー、でもタイガってけっこうアレだから……」
「あ、そうなんですかひそひそ」
「そうなんだよこそこそ」
「お、お前らグルか、グルなのか!?」
 タイガが頭を抱え込んだところで、オレと黒子くんのタイガいじりはおしまい。うっすら目尻に涙さえ見える。しゃがみこんでしまったタイガの背中をぽんぽんと撫でた。
「ごめんごめん、タイガ。黒子くんを呼んだのは、ただ単純にオレが彼にも会いたかったからだからだよ」
「……まあ、それはいいけどよ。頼むからそうならそうで、前もって言っておいてくれよ」
「うん、ごめんね」
「――それはそうと、黒子はいつ入ってきたんだよ?」
 タイガがそんなことを聞いてくるものだから、オレと黒子くんはきょとんとしてしまった。
「いつからも何も……黒子くんはオレと一緒に入ってきたよ?」
「はい、僕ずっと氷室さんの後ろにいました」
 それを聞くと、タイガは疲れた顔でただ「……飯作るわ」とだけ言ってキッチンへと向かった。
 その疲れた背中を見届けて、オレは黒子くんの隣に座った。
「氷室さん、紫原くんと東京に来たんですよね。彼は実家ですか?」
 その質問にそうだよと肯定する。アツシが両親からこの連休中に帰って来いと言われたので、それについてきたのだ。せっかくだしタイガに会うために。
「一応アツシも誘ったんだけどね。わざわざなんで火神ん家なんか行かなきゃいけないの、って。そもそも実家に帰るのも面倒だったみたいだし」
「そうですか」
「あ、でも君が来るって言ったらもしかしたら来てたかもね」
「――まさか。きっと、だから何?と返されるのがオチですよ」
「ふうん?」
 とんとんとん、とタイガの包丁さばきの音が聞こえる。あんな見た目で作るものは本当においしいのだから、人は見かけによらない。
「ところで黒子くん。君、料理はするの?」
「僕は一般家庭の息子なので。でも、ゆでたまごだけは水戸部先輩と小金井先輩のお墨付きを頂きました」
「へえ。一度食べてみたいな」
「ではあとで作りましょう。氷室さんは?」
「オレ?オレはアツシに目を瞑ればいけなくもなくはないと言われたよ」
「はあ」
 黒子くんは結局どっちなのかわからないといった顔で、あいまいにうなずいた。おそらく作ってあげようとしてもタイガに全力で止められるだろうから、彼に料理の腕をお披露目することは一生ないだろう。
 キッチンからは今度はじゅう、という何かが焼ける音がする。同時にいいにおいも広がってくる。
「お腹すいたね」
「はい」
「タイガ、何作ってんだろ」
「さあ」
「……」
「……」
「……さっきの話に戻るんだけどね、」
「はい?」
「やっぱりアツシは君が来るって聞いたら、来てたと思うよ」
「そうでしょうか」
「だって君はそちら側の人間じゃないか」
 彼の目を見て微笑みながらそう言ってやると、一瞬時が止まった、ような気がした。ごくんと誰かがつばを飲み込んだ音がした。
「――買い被りすぎです。それにそのことと紫原くんとのこととは関係ないと思います」
「そうかな。だってね、黒子くん。オレの勘違いかもしれないけれど、今アツシと一番仲いいのは自分だっていう自負があるんだ」
「……勘違いではないと思いますよ」
「ありがとう。――だけどね、それでもキセキの世代の仲には入り込めない」
 彼らを見ると、地上から虹を眺めているような気分になるのだ。
「そしてオレから見れば君もその輪の中だ。――君は君が思ってるよりも、ずっと特別なんだよ?」
 黒子くんはふいと目線をそらした。
「――やっぱり、氷室さんは僕を買い被りすぎです。それにそうやって彼らを遠ざけないでください。彼らは虹でもなんでもなく、同じコートに立つ選手です」
 ――本当はわかっているのだ。キセキの世代は確かに天才かもしれないけど、自分と同じ高校生だということを。そしてそれをちゃんと理解している人間だけが、彼らと対等に渡り合える。
 虹は決して七色ではない。見る方の問題なのだ。
 それでも人はそう簡単に見方を変えることはできない。
「……わかったよ。でも、黒子くん。そういうのは、」
 一向に目を合わせようとしない彼を捕まえて、
「ちゃんと目を見て言ってほしいな」
「ひ、むろさ」
「――人ん家で何してんだ、てめェら」
 いつの間にか調理を終えたタイガが、唇が触れるほど近かったオレと黒子くんをぐいーっと引き離す。
「……ひどいな、いいとこだったのに」
「イケメンだからって何言ってもやっても許されると思うなよ、おい」
「それは言いがかりだよ。オレは自分のことをイケメンだと思ったことはないよ」
「それはそれで嫌味だぞ。――てか、ほら。飯できたから、運ぶぐらいしろよ」
 エプロンを外しながら、タイガがそうだとこちらを振り返る。
「そういや、お前ら何の話してたんだよ」
「ん?ああ、そうだね、」
 ちらりと黒子くんを見る。オレのように地上から虹を見ることも、虹の中に入ることも良しとしない彼の隣にいれば、いつかキセキの世代やタイガと対等になれるだろうか。
「黒子くんに、ぜひ陽泉に来ないかと誘ってたんだよ」
作品名:虹のふもとには、 作家名:kuk