瀬戸内小話3
それが意図する理由が嫌というほど分かって、たまらないと元親は息を吐く。
「……いずれ、この毛利はあれが継ぐ」
「だが、今の大将はあんただろ? もうちょっと、自分を大事にしろよ。でないと、息子らが泣くぜ?」
聡明と評判の毛利の息子達は、父の意図を知っている。知っていて、父を補っている。 毛利の強さは、氷の大将の本心を知るものが傍にいるからこそ。今回の一件で、嫌というほど思い知らされる。
胸下にある緑の鎧に触れると、元親は高い背を折る。そのまま何事かと見る元就の喉元を、ぺろりと舐めた。
「傷つけて、悪かったな」
「大事無い」
舐めるなと突き放す腕に逆らわず元親が離れると、元就は自分の陣に戻るべく歩き出す。
彼の頭上に輝くのは、まだ薄い月。
「面倒な奴だな……」
舌に残る血の味に唇を舐めると、元親もまた彼を待つ自分の陣へと戻るのだった。