お前のために俺は… 【ゾロサンギャグ】
お前のために俺は… 【ゾロサンギャグ】
最近、ゾロがなにやらおかしな体操をはじめたようだ。
なんだかよくわからないが、トレーニングの合間にクネクネと身体をくねらすというか、
とにかく妙な動きを繰り返している。
「なんだってんだ…」
サニー号の甲板の片隅で、今日も同じような動きをしているゾロに横目をやりつつも、
俺は自分の仕事にテキパキと取り掛かる。
この船の日常で、一番仕事が雑多なのはこの俺だ。
コックをまかされている以上、全員の健康管理と食糧調節など、
とにかく朝は誰よりも早く起き、夜は誰よりも遅く寝る生活をしている。
けど、この生活は何も今に始まったことではなくて、
小さい頃からゼフのじいさんの元でコックをやってたときからの根っからのモノ。
だから、これを苦痛と思ったことはない。
クサイ話かもしれないけど、皆が「ウマイ」と言ってくれれば、それで俺の苦労はすべて報われる。
そこまで思ったときに、はっと気が付いた。
普段は食事に関しては無頓着というか、何も言わないゾロが。
まずいとも美味いとも言わず、ただ出されたものをガツガツ食って、
要望と言えば「酒」だけのゾロが。
こんなことを言いだしたのだった。
「イタリア式の体にしてぇんだ。飯、よろしく頼む」
…は?
鳩が豆鉄砲喰らった顔とは、まさにこの時の俺の顔だったと思う。
そんな俺を差し置いて。
「じゃ、頼んだぞ」
と、ゾロは俺の肩を叩いてキッチンを出て行った。
「イタリア式の…体…??」
イタリア、とはまず何なのだろうか。
そんなに知識のない俺には検討もつかない。
けど、俺よりもっと知識のなさそうなゾロには、プライドが邪魔して聞きたくもない。
「イタリア…」
想像していたってさっぱりわからない。
でも、要望を受けたからにはそれを達成したい。
そうでなければコックの名がすたる…!!
「!!そうだ!!」
ロビンちゃんだ!!
この船の中で一番博識なのはロビンちゃん。
それは間違いがない!!
「ロぉおぉ~~ビィィイんちゃぁ~~~ん♡♡♡」
俺はアイスコーヒーとシナモンケーキを手にロビンちゃんの元へと回転しながら参上した。
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「あぁ、イタリア…私も、少ししか聞いたことはないけど、それはとても遠い国の名前ね。」
ロビンちゃんは、優雅な動作でアイスコーヒーを飲んでいる。
俺はその仕草にうっとりしながらも、ウンウンと頷きながら話を聞く。
「剣士さんが『イタリア式の体にしてくれ』と言ったのね?」
「そうなんだ。つまり、その国の人みたいな体にしたいってことなのかな」
「そうねぇ…イタリアの人がどの体なのかは、私もちょっとわからないわ。ごめんなさいね。でも…」
「でも?」
「イタリアのお料理がどういうものかはわかるかもしれないわ。少し、私も調べてみて資料を取り寄せてみるわね。カモメ便が運んできてくれると思うし」
「ありがてぇ。ほんと、あのクソマリモ、ロビンちゃんにまで迷惑かけて…」
「あら、コックさん、そんなこと言って、本当は嬉しいんじゃないの?」
「へ?んなわけ…」
「そう?ごめんなさいね、コックさん、とても生き生きしてたから…まるで、剣士さんの役に立てることが嬉しいみたいに…」
二の句が継げないでいると、ロビンちゃんは、ふふっと笑って席を立った。
「ごちそうさま。とてもおいしかったわ。頑張ってね、コックさん」
ロビンちゃんが立ち去る姿を見ながら、かなわねぇな、と一人呟いた。
そう、俺は確かに、あのマリモの役に少しでもたちたいと思っている…
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それから数日が経ち、ロビンちゃんからもらったレシピを基に、
俺はなんとか今ある食糧でイタリア料理を編み出していった。
来る日も来る日も、ゾロにだけスペシャルメニューを並べる。
ゾロは、何も言わずに「おう」と言いながら食うだけだ。
これが、本当に「イタリア式の体にしたい」ということなのか。
俺にもよくわからないけど、ゾロも何も言わない。
これで合っているのか、怖くて俺も聞けなかった。
そして、あのクネクネ体操である。
丁度、イタリア料理を食べ始めてから時々あの動きを見るようになった。
あれは、やはりイタリア式の体になるためのものなのだろうか…
「ふああああぁああぁあぁあぁあぁぁぁあぁぁあぁ!!!!!」
突然、ゾロが奇声をあげた。
「!??!?!??!?」
「なんだなんだ!?」
「どうしたどうした!?」
その声が余りに異常で、他の奴らもバタバタと甲板に出てくる。
その、注目の中。
ゾロは、突然甲板にひれ伏し、土下座を繰り返すような動作を始めた。
と思ったら、立って、また膝まづいて、土下座を繰り返す…
「な、なんだ…?」
俺のイタリア料理がゾロをおかしくしてしまったのか。
瞬間的にそう思ったが、その思考はロビンちゃんに遮られた。
「この動作は…礼拝ね…」
「礼拝??」
「コーランという経典に記されている、イスラム教という宗教の礼拝よ。」
「は!?」
「もちろん、イタリアとは関係ないわ…」
「へ!?」
「剣士さん、なにか勘違いしてるんじゃないかしら…」
「…」
きっと、あいつのことだ。
イタリアとかコーランとか、よく知らない言葉を聞いて
なんでも強くなるために取り入れようとしたのかもしれない。
俺は、ゾロの奇怪な仕草を遠くからただただ見つめていた。
2013.08.20
作品名:お前のために俺は… 【ゾロサンギャグ】 作家名:碧風 -aoka-