空き部屋の静けさ
兵長としていろいろ期待されるようになって思うことがある。
俺は本当に期待されるような人間なのか。
昔腐る程荒れていた俺が、調査兵団に入団して多くのやつらに期待されるようになった。
団員からも民衆からも。
本当にそれでいいのか?過去の俺を民衆が知ったらどうなるだろうか。
俺の性格上の問題なのか、自分自身が気に食わない。くだらないことだが。
(この部屋、いつも誰もいねえ。空き部屋だからか)
最近、この空き部屋のソファでくつろぐのが習慣になっていた。
誰も来ないから落ち着く。寝っ転がっていて気がつくと寝ていることもある。
「・・・・・つかれた」
無意識に言葉が口から出ていた。
その瞬間、聞き慣れた優しい声が聞こえてきた。
「リヴァイ、なに一人でぼやいている」
「エルヴィン、ノックもしないでなんだ」
「君なら私の気配ぐらい感じられると思ったのだが」
なぜかこいつと話すことが久々に感じた。つい最近話したばかりなのに。
「疲れている。それよりなぜこんなところにいる。お前忙しいんだろ?」
「今日は忙しくない日なんだ。こういう日はよくこの部屋にいるんだよ。誰も来ないからゆっくりできる」
「お前もか。俺もだ」
「やっぱりか」
そう言って笑った。
本当にこいつはよく笑うやつだ。一日一回はなにがあっても笑うタイプだな。
「そういえばリヴァイ、疲れていると言ったな。大丈夫か?顔もやつれているが」
「頭をつかいすぎた」
「あまり一人で抱え込むのはよくない。何かあったら私に言いなさい」
「そういわれると逆に言いづらい」
それを聞いたエルヴィンは何か考えているような顔をして俺の顔をじっと見つめてきた。
「なんだ」
「リヴァイ、君はもう生まれ変わったはずだ」
「なんのことだ」
いきなり意味不明なことを言われて反応に困った。
「君は調査兵団に入ったあの日から一人の新しい団員なんだよ。兵団に入団したその日からの行いで今後どうなるかが決まる。君は入団した日からの行いが正しかったから今の君がいるんだ。今の自分だけを率直に見つめていればいい」
体が一気に軽くなった気がした。気がしただけだが。多分、他のやつが同じことをいったとしてもこんな気持ちにはならないと思う。
-----ぐっ
「リヴァイ、顔が近いな」
「あたりまえだろ。俺がお前の顔を引き寄せてんだから」
「図星だったか」
「ははっ、よくわかったな。さすが」
やっぱり俺はこいつなしじゃ駄目らしいな。
そう思っている間にエルヴィンは俺のワイシャツに手をかけた。
俺はその手をそっと掴んだ。
「駄目か?」
「夜まで待てよ」
それを聞いてエルヴィンは静かに笑った。
俺はエルヴィンの手を強く握り締めた。
離れていかないように。強く。