FATE×Dies Irae3話―3
状況を察した凛たちの行動は早かった。
凛とアーチャー。士郎とセイバー。
結界を張った張本人を探し出すべく、二手に別れ、校内を駆け回る。
そして、
「やあ、遠坂」
廊下の一角。
そいつは芝居がかった仕草で両腕を広げ、得意げな笑みを浮かべて、凛たちを出迎えた。
「慎二……!」
忌々しげに臍を噛む凛の注意は、正面の慎二ではなく、傍らに侍る黒装束の美女に向けられていた。
腰まで流れる紫の長髪に、白く艶めかしい長躯。そして、その双眸を顔の上半分ごと異相の眼帯で覆い隠したその女こそ、ライダーのクラスを得て現界した、慎二のサーバントだった。
「やっぱり、この結界を張ったのはあんたたちだったのね……!」
間違いない。
漆黒のサーバントには、先ほど顔を合わせた時とはくらべものにならないくらいの膨大な魔力が集っている。
「まあね。遠坂に嘘をついたのは悪いと思ってるけど、敵を欺くにはまず味方からって言うだろ?」
「味方?」
「そうさ」
吐き捨てる凛の態度など目に入っていないとばかりに、慎二は嬉々と笑う。
「あんた頭大丈夫? 同盟の話は、さっききっぱりと断ったはずだけど」
「ああ、分かってるとも遠坂。君の気持ちはさ。まあ確かに。いくらサーバントを使役してるって言ったって、魔術回路のない僕じゃ戦力としては心もとないってのは分かるよ。手を組みたくても、君はともかく遊佐って奴は納得しないだろうさ。でももう大丈夫。生憎完成しきる前に発動させちゃったからイマイチ効き目は弱いようだけど、それでもあと二、三十分もあれば完全に絞りつくせる。そうすれば、僕のライダーは黒円卓も他のマスターも目じゃなくなる。君や遊佐って奴の眼鏡にも、きっとかなうはずさ」
「まさか、そのために結界を発動させたの……!?」
そんなことのために。
「? 何を怒ってるんだい、遠坂? まさか、魔術師の君が人倫を説こうってわけじゃないよね?」
「愚問ね。私は人として怒ってるんじゃなくて、一人の魔術師としてあんたの愚挙に腹を立ててるのよ。神秘の秘匿は魔術師の義務よ。それを白昼堂々、こうもおおっぴらに行使するなんて。これは明白なルール違反よ、慎二。この街の管理を任されたセカンドオーナーとして、決して見過ごすことはできないわ。
――アーチャー」
実体化したアーチャーが、戦意と双剣を携え、一歩を踏み出す。
「な、なんのつもりだよ遠坂!? まさか僕とやりあおうって言うのか……!?」
突き刺さる敵意の理由が本当に分からないのだろう。
慎二は狼狽もあらわに頬を引き攣らせ、
「そ、そうか! なるほど、ライダーの力を試そうってわけか! ははっ……! いいとも遠坂。この僕が、同盟を結ぶにふさわしい存在だと言うことを証明してみせようじゃないか!」
「…………」
どこまでも的外れな慎二の言動に、もはや言葉も出てこない。
「行きなさい、アーチャー!」
「や、やれ! ライダー!」
真紅の裾が翻り、漆黒の影が地を滑る。
互いに主の命を受け、赤と黒の英霊が、今ここに死力を尽くしぶつかりあう。
◆◆◆
「やれやれ。ったく、余計な手間とらせやがって」
司狼は辟易とぼやきながら、形成したバイクに跨り、冬木市の中心部を目指す。
折り悪く結界の発動に巻き込まれたせいで、すっかり足止めを食ってしまった。
幸い遮断を目的とした結界(もの)ではなかったおかげで閉じ込められることだけはなかったが、間にあわなければ同じことだ。
法定速度をぶっちぎり、車と車の間を縫うように駆け抜ける。
(……にしても、大丈夫かねえ、あいつら)
結界の発する魔力は聖遺物のものとは異なった。
となれば、ほぼ間違いなくサーバントの仕業だろう。
ならば司狼の出る幕はない。
もっとも、仮にもし結界を張ったのが聖遺物の使徒だったとしても、司狼は敵も結界も放置し、同じように学校をあとにしていたことだろう。
さもあらん。
今は他所事に手を出している余裕などない。
「エリィの情報が正しけりゃ、もうじきこの街に入る頃合いか」
呟く司狼の口元からは、普段のにやけきった笑みは消えていた。
「何事もなく通り過ぎて欲しいところだが……そういうわけにはいかねえだろうな」
よりにもよって、このタイミングでの来訪だ。
カール・クラフトが裏で糸を引いているのは疑いようもない。
「出来ることなら、あいつの縁者を巻き込みたくはねえが……くそっ! ほんと、良い趣味してやがるぜ蛇野郎……!」
司狼は苛立ちもあらわに毒づきながら、アクセルを強く握り込んだ。
作品名:FATE×Dies Irae3話―3 作家名:真砂