初めて触れる世界
そんな当たり前なこと。
あまりにも軽薄なこの世の中。
情緒なんて、ありふれていて。
ただ信じられるのはアイツのお陰。
「武」
呼ばれたと同時に俺は笑みで向かえた。
ベッドの上、二人で寝転がって。
行為も既に終わり、抱き合っていた。
動物が母子と寄り添うようなそんな感じで。
時には鼻をすりよせあって、
「ツナってさ、」
「うん?」
雰囲気がエロいよな、なんて変な話。
それからツナが笑って俺も笑ったんだ。
「なら、武は…」
ツナの大きな手が俺の頬を包む。
人差し指が俺の唇の形をなぞる。
「全部」
手も足も胸も腰も体と髪の匂いまで全部、えろい。
何もかもが俺の五感を誘って離れられない、と。
ツナが首筋に軽く啄むようにして俺の肌を食んだ。
「んっ」
密事なんてまだ先の話だと思っていた。
今日、ツナに求められるまでは。
今までこんな性急な姿、見たことなかった。
性欲には淡白なんだと思っていたから。
そう素直に感想を述べればツナは笑って、
「男は、好きな女の子の全部が欲しいものなんだ」
軽く変態を招くような発言で俺を笑わせた。
そして、唇に確かな温度を感じてゆっくり瞼を閉じた。
【初めて触れる世界】
(俺たちはまた一歩、踏みだした)
fin.