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香り

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「そういえばエレン」


「なんだアルミン」


「僕、これからちょっと寄って行きたいところがあるから先に部屋戻っててよ」


「わかった。長官に見つからないようにな」


「うん!」


夕食を食べ終えたあとはいつもこうしてアルミンと話しながら部屋に戻るが、今日は珍しくアルミンが長官の目を盗んで外出らしい。


俺も夜、外に出るのは好きだが疲れ果てていてそれどころじゃなかった。


巨人殺しの技を身につけるにはこれくらいの訓練をしなくてはならないんだとはわかっているが、やはり疲れるものは疲れる。


俺は体の重さに耐えながら、足早に部屋へむかった。


部屋に戻ってきたものの、まだ誰もいなかった。


みんな別の部屋のやつと話したり、女子に絡みに行ったりして楽しんでいるが、俺にはそんなことをする元気など残っていない。


俺は誰のものかもわからない布団に倒れ込んだ。


(この布団、すげーいい匂いがする。ここに寝てるの誰だっけ)


あまりにいい匂いすぎて掛け布団もかぶった。


すごく心地がよくて、体が楽になっていく気がした。


そのとき、部屋の扉が開いて誰かが入ってくる音がした。


起き上がってみてみると、呆れた顔をして俺を見ているジャンがいた。


「おいエレン。そこ俺の寝床だぞ」


ここ、ジャンの布団だったのか。


「すまん。すごくいい匂いがしたものだからつい」


「まあ別にいいけどさ。俺まだ寝ないから布団使ってろよ」


ジャンはそう言って俺の横にあぐらをかいて座った。


「ジャン、どうした?」


「別に。こうして二人きりになるの初めてだなーって思っただけだ」


たしかに今までジャンと部屋で二人きりになったことがなかった。


「そうだな。二人だけで話したこともあんまりないよな」


「まあな。喧嘩は糞がつくほどしてたけどな」


「はははっ。懐かしいな」


ジャンと出会ったばかりの時は、お互いの性格の違いから喧嘩を繰り返していたが、今は和解して喧嘩をすることはなくなった。


でもこうして二人で話すのは初めてだから、何を話したらいいのかわからなくなって少し沈黙が続いた。


俺はその間、ぼーっとしていたが、ジャンがいきなり沈黙を破った。


「その布団、臭くねえか」


「全然臭くねえよ。すごくいい匂いがする。俺はこの匂い好きだけど」


そう言って俺はもう一度膝の上にのせていた掛け布団の匂いをかいだ。やっぱりすごくいい匂いがする。


「・・・・・じゃあ・・俺は?」


「え?」


ジャンの発した言葉が理解できず聞き直した。


するとジャンは少しうつむき、何事もなかったかのように顔を上げた。


「ジャンどうし・・」


言い終える前にジャンは俺にぎゅっと抱きついていた。


ジャンの匂いがふわっと鼻に入ってくる。


「んなあっ!ジャ、ジャン?・・・」


突然のことに俺はかなり驚いた。俺の心臓の動きがどんどん加速してきた。早すぎて心臓が止まりそうだ。


「俺の・・・匂いは・・・・・?」


俺は落ち着いたのかまだ焦っているのかよくわからない感覚だった。


「ん・・・、すげーいい匂い。布団より濃い匂いがする・・」


「好きか?」


「・・・うん。好きだ」


俺は自分でそう言ったが、違う意味の「好き」に聞こえてきて恥ずかしくなった。


少し顔をずらしてジャンの顔を見ると、頬が少し赤くなって見えた。


ジャンもきっと俺と同じ心境に違いないだろう。


そんなことを考えていたら、突然勢いよく布団に押し倒された。


「んあっ、はぁ・・」


倒れた衝撃で思わず変な声が出てしまった。


「エレン、今の声、エロい」


「うるせっ・・・。仕方ねえだろ・・」


俺がそう言うとジャンは半笑いして、自分の顔を俺の顔に近づけてきた。


「お前、訓練兵に入ったばかりのときと全然顔つき変わったな」


「ジャンは相変わらず気の抜けた顔してるけどな」


「うるせー余計なお世話だ阿呆」


ジャンは流れていくように、自分の唇を俺の唇に重ねた。


「ん・・・はぁ、あ・・ん」


舌が入ってきて熱くなってきた。溶けそうだ。


キスしながらジャンは俺の服の中に手を入れた。


「ジャぁあはぁ・・んん」


「乳首感じてんの?」


「感じてねぇ・・・ん・」


「可愛い」


「うるせーよ・・・」


突然ジャンが手を止め、何かに集中した。


「・・・ジャン?」


「俺、もう我慢できねえけどさ」


「え?」


「誰か来たみてえだ」


そう言ったジャンは勢いよく俺に掛け布団をかけた。


それと同時に部屋の扉が開く音がした。


「ようジャン!一人か?」


この声はコニーか。


「いや、ここにエレンが寝てる」


「あれ、それジャンの布団じゃないの?」


この声はアルミンだな。


「いろいろあってな。そういえばお前ら帰ってくるの遅いな。一緒にいたのか?」


「いや、たまたまそこで会ったから一緒に帰ってきただけだよ」


「そうか」


「・・・・・なあ、ジャン」


俺は布団の間から小声でジャンを呼んだ。


「お前はこのままもう寝ろ。疲れてんだろ」


ジャンは小声でそう言って、掛け布団の上から俺の頭をわしゃわしゃ動かした。


「でもお前・・・」


「だから早く寝て、みんなが寝たあとに起きろっていう意味だ。ちゃんと最後までやらせろよ」


「・・・お、おう」


「何照れてんだ」


ジャンは静かに笑った。


「・・・ジャン」


「ん?」


「おやすみ」


「おう」
作品名:香り 作家名:詠火