A decomposed body?
いつも僕と居るときは口を次いで出る言葉は、僕の分身であり部下であり妹であり一部である彼女の名ばかり。クロームと綱吉くんは今訳合って一緒に居るわけにはいかないので、彼女の意志を自由に感じ取れる僕を介して彼は安定を保つ。クロームもそれが判っているから(まあそれがなくとも嫌がらないとは思うが) 意識をとばすときにとてもとても嬉しそうである。表情が変わらずとも彼女の心情の世界に色味が増す。きらきら、と、僕が彼女の手を取ったあのときのように。
「どうしたんですか」
彼女は元気ですよ、と予測しうる彼が求める答えを言ってやるが、うんわかってるよさっき電話したし、とさほど感心がないように返ってきた。なら何故彼は僕に構うのだろうか。胸騒ぎがするけれど、動揺が知られるのが嫌で普通のふりをする。
するとさっきまで上半身をつたっていた彼の手がぺたぺたと、僕の顔をやさしく触った。
「あのさ、」
「なんですか」
「昨日、クリームシチュー作ったじゃんか」
ああ、と言葉で思い浮かべる。この暑い夏の日に突然綱吉くんが"クリームシチューが食べたい、肉じゃなくホタテとか入れたやつ"とスーパーでだいぶごねるものだから、根負けして材料を買ったのを思い出した。と、いうか作ったのは君ではなく僕なのだが。
「それが?」
「朝さ、骸が出かけた後に食べようと思って温めたんだよ。でもその後すぐに獄寺くんに呼び出されて、ついついそのまま放置して出かけちゃって」
と彼は言い掛け、やばいな、と思ったのかゴメンと一息ついた。彼の理不尽さには冒頭で少し述べたように慣れっこだったし(まあ少しはむっとしたが)、話半分でさっぱり要領が得ないので先を促す。
「うん、それで、帰ってきて何か食べたいと思って台所行ったら」
「腐ってたでしょう」
「いや、腐ってはないけど味見したら変な味した」
「食べたんですか…」
「ごめん、捨てた」
「まあしょうがないですね。」
「んで、夏だからかなーって思って。ほら夏って暑いから物が早く痛むし悪くなるってお前言ってただろ?そう考えたら、お前が腐ってないか心配になった」
だから触ってるけど大丈夫みたいだな、と言うと彼は僕の身体を触るのをやめた。しばらく意味がわからず蓬ける。
腐る。
何故クリームシチューを放置して腐らせたときに僕が腐敗しているか否かへと思考が移るのだろう。
「意味がわからないですよ綱吉くん…」
自分の頭の、ほんの少し頭痛がする箇所に手を当てて言い返す。彼は僕のことを電波だとかよくわからないと散々に罵倒することがあるが、今ほどそれが理不尽だと思ったことはない。彼も大概おかしい。
「まあ、俺も俺なりに骸のことを気にしてるし好きだということだよ。ただの道具だとも思ってない。さっきのはそれの確認も兼ねて、ね」
よし、もう大丈夫だね生きてる生きてる!と、もう興味を無くしたと言いたげに、綱吉くんは扉を閉めて部屋を出ていった。帰りがけに大きな爆弾を落とされた僕は、訳もわからずその場に立ちつくしていた。きっと別れ際にキスされたあのときより、僕は顔が今真っ赤なのに違いない。
作品名:A decomposed body? 作家名:sui