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【マクロスF/ミハアル】酸素の音

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 息をする。 深く息をする。 深呼吸、肺にまで行き渡る熱い気体。 夏の保温庫で生ぬるくなったそれは決して旨くはないが、人工の風で冷えすぎた体には丁度良い温度だった。 少し切りすぎたかと不安になる髪を、彼はなんと言うだろうか。 どうせ軟派な笑みをして、似合っているよとでも言うのだろう。 あいつはそういう奴だ。
 そんな、女性と自分にはとことん甘く気障な男が、今日初めて待ち合わせに遅刻している。 珍しいこともあるものだと、有人はもう一度深呼吸をした。 待ち人未だ来たらず、である。

「熱……」
流れる汗が首筋を伝う。 状況に悪態を吐いたところで、ではあるが、暇を潰せる物の持ち合わせも無く、ミハエルの到着を予想出来そうな情報も無い。 ……あの馬鹿は一体今どこをほっつき歩いているのやら、連絡の一つも寄越さないなんて。 待たされることは苦ではないものの、何かあったのかもしれないという焦燥感が募り始める。 短くしたはいいが、以前のように纏めてしまうことも出来ない中途半端な髪も苛つきを煽って、有人はもう何度目とも知れない電話を掛けた。 ミハエルは一向に出ようとしない。

「……おせーよ、バカミシェル」
早く来てくれないと、不安で押し潰されそうになる。 いつものように、軽い調子で、態とらしく姫、と呼んで欲しい。 普段なら嫌な冗談が、今はこんなに恋しいなんて。 項垂れて今度は恋人に文句を言ってみるが、応える者は無かった。 腰掛けているベンチに足を上げ、体育座りで縮こまる。
 再度電話を掛けても、ミハエルはやはり出ない。 出せる水分など無いほど渇いているはずなのに、涙が浮かんで服に染み出した。 熱い体が水分を求め意識が朦朧とする。

「返事くらいしろよ……、今何処なんだよ、馬鹿ミハエル……っ!」

噎せるような苦しさが、気管支の奥で蟠りを作る。 そうして日が暮れても、有人はそんなことを繰り返し続けた。 息を深く吸い込めば生きている感じがして、それが更に、虚しさを煽って吐き気を催す。
有人が電話をする度に、ポケットの中のもう一つの携帯が着信を知らせて光っていた。
待ち人は未だ帰還せず、である。




酸素の音