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ぐらにる 感謝

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綺麗な裸体を目の前にして、満足気に微笑む男は、さわさわと、その白い肌を撫でる。相手は、まだ夢の中だから、目は覚めない。一応、同居はしているが仕事が違いすぎるので、同じ休日というのも難しいのだが、この日だけは、何が何でも、グラハムも休暇をもぎ取ってくるし、ニールも仕事は休みになるように調整する。
 せっかくのイベントだから、それを理由にして、二人で過ごすのだ。これといって、何かをするわけでもないのだが、今年は、旅行に出ることにした。そうしないと、グラハムが呼び出しを受けてしまうからだ。さすがに職場から何百キロも離れれば、呼び出しもできない。どちらも、それほど観光地に興味がないから、とりあえず、どこからも連絡が入らないであろう場所を選んだ。リゾートな島の水上バンガローへ昨日、辿り着いて現在に至っている。さわさわと撫でていると、次第にニールも意識が戻ってくる。枕に顔を埋めたまま、くぐもった声がする。
「・・・・寝かせろ・・・・」
「もう昼に近い時間なんだが? 」
「・・・・メシなら勝手に行け。」
「食事は済ませた。それで、もうひとつの欲求が満たしたいのだが、いかがだろうか? 」
「・・・もう、何も出ません・・・・」
 辿り着いて、優雅な休暇を楽しもうと思っていたのだ。だというのに、同居人は、もう、いきなりベッドに押し倒してきたのだ。そりゃ、ここんところ、すれ違い生活ではあったが、それにしたって、ムードも何もないんかい、と、ニールも文句の一つも言いたいところだ。いや、その勢いに飲まれて、盛り上がったのはニールも同罪だが、さすがに、昨日の今日で、さらに、と、言われても無理というものだ。頼むから、寝かせてくれ、と、頼んだものの、さわさわと不埒な動きで、グラハムはニールの背中を撫でている。
 これがマッサージなら最高なんだけどなあ、と、ぼんやり考えていたら、よだれが垂れた。完全に頭が寝ているらしい。とりあえず、リクエストはしてみる。
「・・・もっと・・・背中の上・・・押して・・・」
「ああ、こうか? 」
「・・うん・・・気持ちいい・・・」
 ぎゅっぎゅっと背中を指圧されると、たまらなく気持ちがいい。なんせ、ニールも休みを取るために、かなり強硬なスケジュールだったのだ。ほぼ1ヶ月近く休みなしで、フルタイム働いて、この時間がある。だから、草臥れていた。
「・・・姫・・・少し仕事はセーブできないのか? 」
「・・・あー・・・そうしたい・・・うん・・・でも、今は無理。」
 そろそろ仕事のペースを落としたいのだが、なかなか上司が、うん、とは言わない。なんせ、ニールはマイスターとまで呼ばれるほどの腕前なのだ。あっちこっち、引く手あまたの状態で、纏まった休みを取るのも一苦労している状態だ。後輩たちが育たなければ、最前線から引くのは難しい。
「きみの体力は、私が熟知している。今は、オーバーワークだ。」
「・・うん、そーだろーなー・・・あー、そこ、もっと。」
 というか、ボロボロなんだから、ちょっとは、ゆっくりさせてやろうとか思わないか? あんた、と、内心でツッコミだ。ぐっと腰を押されて、ああっと声が出る。さらに、よからぬ方向に腕は下りていく。太腿の付け根あたりに手が流離って、さらに内腿に侵入してくる。
「・・・・グラハム・・・・」
「何だ? 」
「・・・寝かせろ・・・」
「断固拒否する。そろそろ、私の全身で、きみを楽しませたい。」
「それこそ、断固拒否。・・・・・ちょっ、まっっ待てっっ。」
「待たない。もう限界だ。」
 昨晩から、夜明けまで入れっぱなしだったから、まだ内は柔らかいままだ。そこへ指を差し入れられると、ニールの背中も跳ねる。やりたくないわけではないのだ。ただ、眠ってからやりたいだけなのだから、反応はする。ローションが塗られ、さくさくと準備されてしまえば止められるはずもない。艶のある声が出てしまい、かっと肌が火照ってくる。
「・・・姫・・・」
「・・・来い・・・」
 こうなると、しょうがない。ニールも身体を仰向けにして、グラハムに手を延ばした。やりたい盛りのティーンエイジゃーでもあるまいに、なぜ、そこまでがっつくかなあ、と、思いつつ、やっぱり流されて抱かれてしまうのは、いつものことだ。


 結局、そのままなし崩しに盛り上がり、気が付いたら午後の遅い時間だ。も、ダメだ。休憩させろ、と、ニールが懇願した。
もう出すものがない状態まで追い込まれている。眠りたい、いや、空腹だ、頼むから、と、ニールが泣いてグラハムに頼んで、ようやく願いは聞き届けられた。
 ベッドメイキングのため、部屋は追い出された。ウッドデッキに用意された食事を、がっつかないように注意して口にする。
南国らしいフルーツがふんだんに使われた料理は、珍しくておいしい。
「このソース、いいな。あとで、シェフんとこまで聞きに行こう。」
 フルーツの酸味で味付けされたドレッシングが気に入った。何が入っているのか、基本レシピぐらいならシェフも教えてくれる。それに、ニールは、「人たらし」という特殊技能があるので、隠し味も、かなりの確率で知ることができる。
「姫、ここでは仕事はしないでくれないか? 」
「いや、仕事じゃなくて、我が家の食卓に、このドレッシングが欲しいってだけ。」
「きみの他人との接触は極力、避けたいと、私は、この休暇の前に頼まなかったか? 」
「あー、なんか、そんなこと言ってたな、あんた。」
 ニールの「人たらし」能力は、強烈で、老若男女を問わず、すぐに打ち解けて仲良くなる。そうなると、せっかくの二人きりの旅が、騒がしくなるのだ。主に、ニールへの来客で。できれば、今回は、それを避けたい、と、グラハムは頼んでいた。だから、レストランにも出向かず、ルームサービスを頼んでいる。
「私のリクエストをないがしろにすると? 」
「そんなつもりはないけど、でもさ、せっかくなんだから、他の事もしようぜ? 泳ぐとかドライブするとかさ。」
 このまま、延々とエッチだけなんて、悲しすぎる。それなら、マンションに籠っているのと変わらないので、ニールも、そう提案する。せっかくの南国リゾートだ。そういう遊びを、ちょっとぐらいはやりたい。
「では、天体観測は、どうだろう? 確か、山のほうに天文台があると、ガイドブックにあったぞ。」
「うん、食べたら行こう。・・・・・俺、青姦はヤだからな? グラハム。やるなら、ベッド。オッケー? 」
「くくくくく・・・・さすがに、私も満足した。今夜は、睡眠を楽しみたい。」
「俺、今ちょっと寝たい。」
 腹がくちくなると、ニールの瞼は下がってくる。まあ、そりゃそうだわな、と、面前のグラハムに、とびきりの笑顔で、おねだりする。
「グラハム、運んで? 」
 両手を差し出して、小首を傾げたら、しょうがないお姫様だ、と、文句を言いながらグラハムも立ち上がる。横抱きで、軽々とニールを抱き上げると、リビングへ入る。年に二回、グラハムとニールは休暇を取る。いつもは、三日が、せいぜいだが、とりあえず、年二回だけ、互いに感謝をするために。どちらもが生まれてきたから、この関係がある。だから、その日は、二人で互いに感謝して過ごすことにしている。
作品名:ぐらにる 感謝 作家名:篠義