good morning
冷たい秋雨だ。
雨に煙る島内は肌寒い。
二日前にこの島に到着したGM号は、目立たない入江に碇を下ろした。
ログが溜まるまで6日間。
毎日一人の船番を残して、他のクルーたちは島で宿を取る事にした。
当然のように女性陣は船番から外れているので、毎日交代で船に残るのは男共だ。
今頃ウソップが一人、メリーと仲良くしている事だろう。
毎朝一番早くに起き出して全員の食事の準備をするサンジは、宿のベッドでもいつもと同じ時間に目が覚める。
長い間の習慣。
しかし今日はその習慣の中に慣れない重みを感じる。
筋肉ばかりの重たいゾロの腕が、サンジの腰に絡みつくように回されている。
一糸纏わぬ肌の上に、ゾロの高い体温。
重みに身動ぐと、久し振りに抱き合った後の名残の軋みが身体に走る。
ゾロに背中を向けていたサンジは重たい腕の下でなんとかうつ伏せに寝返ると、痛む腰に眉根を寄せた。
動く事もかったるく、サイドテーブルに手を伸ばして昨夜ゾロが置いた飲みかけのワインボトルを取る。
酷く乾いた喉にワインの残りを流し込み、続いて煙草を咥えた。
「……雨か」
不意に隣から聞こえた低く呻くような声に、サンジは少し驚いた。
気配に聡いゾロは、サンジが目を覚ましたと同時にきっと起きたのだろう。
音もなく、静かに街に降り注ぐ雨の気配をも感じ取ったようだ。
「…みてぇだな」
咥えた煙草に火を灯し、紫煙を吐きながらサンジが答えるとゾロも起き上がる。
欠伸をしながら今サンジが口を付けたワインボトルを取ると、飲み干してしまった。
早朝の雨の街に音はない。
酷く静かだ。
「…疼くな」
「…は?」
ベッドのすぐ横にある窓の外。
レースのカーテンを少し捲って外を見たゾロの呟きに、サンジは怪訝な顔を向ける。
「何だよ、もしかしてまだシ足りねぇのか?」
お前ェの絶倫に俺は付いて行けねぇ、と呟き返したサンジに、ゾロは視線を戻す。
「違ェ。傷が、だ。雨で湿気が多いと、傷跡が疼くだろ」
微かに笑ったゾロの声に、サンジは裸のゾロの胸に走る大きな傷跡に目をやる。
見慣れたとは言え、目立つ傷だ。
ああ、と納得の呟きを落としたサンジは枕に頬杖を付き、肺を満たした紫煙を吐き出した。
「そう言えば、俺も寒いと背中が痛ェ気がすんなぁ」
一人語ちる声に小さく頷くと、煙草を咥えたままのサンジを見詰めて今度はゾロが眉根を寄せる。
「…灰、落ちるぞ」
「…おお」
寝煙草は止めろとゾロが何度も言ってるにも関わらず、直らないサンジの癖。
そう言うゾロも、サンジが何度もベッドで寝っ転がりながら酒を飲むなと注意しても直らない。
お互い様の、なくて七癖。
直せと言わずに互いに注意して見ててやるようになったのは、いつからだろうか。
ゾロの注意にサンジは灰ばかりが長くなり、短くなってしまった煙草をベッドサイドの灰皿で揉み消した。
それを見るとゾロも空のワインボトルを床に転がし、再びベッドに潜ってサンジの裸の腰に腕を巻き付けた。
「おい、せっかく久し振りの陸なんだからよ…」
「せっかく久し振りの陸なんだから、もっとこうさせろ」
小さいけれど街も市場も人で賑わっていた。
久し振りの陸なのだから市場へ出掛けたりしたいと思うサンジの言葉を、ゾロが遮る。
航海の間、出来ない事。
サンジの買い物は、どうせ最終日にまとめてする時間をナミに貰ってる。
今は、船の上では出来ない事。
二人でする、朝寝。
船番もなくこうしていられるのは、今夜まで。
今日は雨だし。まあ、いいか。
ゾロの方へと向きを変えて寝返ると、サンジはゾロの胸に額を擦り付けて目を閉じた。
静かな雨音を聞きながら、もう暫くは。
end
作品名:good morning 作家名:瑞樹