二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

あなたにであう10年余り

INDEX|1ページ/1ページ|

 
かなでが、俺の頭をぎゅっと抱いたとき、ほんとは俺は今より少し昔のことを考えていた。兄貴が出て行った。随分懐かしくて、ちょっと脚色がかっているかもしれない。だけど、そのころの話。
 

 季節がいつだったのか、冬だったのか、それとも夏だったのか。寒かった思い出からして冬っぽいけど、それも少し怪しい。ちょうどいまと同じように俺には自分の生き方に関するすべてのことがわからなくなってて、まさに暗闇って感じだった。目標を失って沈黙して、ちょっとだけ暴力的になって、でもいつも何か怖くておびえて、虚勢をはってたことがあった。誰も俺の悲しみなんてわからないだろうとたかをくくって、相談もせず、助言も求めないで、でもとても哀しいのはどうしようもなくて、誰もいないところでこっそり泣いた。声もあげず。
ある放課後のことだった。俺は何も考えず、ただ沈黙して空を見ていた。ふと、思い出されるすべてのことをあきらめてしまおうと思って。そうすれば悲しいことは何もないんだって。そう思った瞬間にまた、頬をつう、と一筋涙がこぼれた。
「きょうやくんのバイオリンがききたいなぁ。」
彼女はいつもそうやってわくわくした顔で俺を見るのだ。俺のほうが少し上手にひける、それだけで彼女は俺を尊敬してくれた。
俺はそのとき、彼女がなぜ、ここにいてくれないのだろう、と思った。俺の肩を抱いて、慰めてほしいとまでは思わなかったけれど、彼女の姿を思い浮かべた。
 探してほしかった。だからあのころいつもかなでが見つけやすいように、彼女の遠くでは泣かなかったんだな俺は。なんてしょうもない。
 次の日学校に行くと、彼女はいたけれど、特に何もなくて、挨拶をして、とりとめもない話をした。俺は彼女に甘えられなかった。 
 
 それでもやっぱりほんとにずっと守っていたのは彼女のほうだった。結局その言葉に救われて、何一つあきらめきれなかった。兄貴の背中を追うことがつらくて、だから目標もなくヴァイオリン続けて、お前がせがむままに弾き続けた。まわりの、兄貴との比較をほのめかした俺への評価も、死んだように聞き流した。俺はやつらが大嫌いで、奴らもあんまり俺のこと好きじゃなかった。お前が俺を褒める言葉しか、耳に入ってこなかった。って、いや、入ってはいたんだよな、俺は小心者だから。
 俺は何度も、彼女を守ったつもりになっていた。軽口たたいて、お前はほんとおっちょこちょいだとか、こんなやつだ、あんなやつだ、といってお前のできないところをあげつらっていた。「お前を守ってやらなきゃいけないんだ。お前はしょうがないやつだから。」何様だ。お前はそれでも笑っていたけれど、こんなに愚かしい言葉はない。
 結局一瞬のうちにいろんな後悔がかけめぐって俺はやっぱり自分が少し嫌いになった。傷も抉られて深くなった。男は救われることで救われない。逆に、いろんなものが傷ついちゃうんだよ。お前にはわからないだろうけど。
 ずり、と少し前に持たれて、胸に顔をうずめる。鼓動の音すら聞こえる。
 人の腕の中ってこんな暖かいんだなぁ、あのときも、見つけてほしかったなぁ。守ってくれてありがとうって、もっと早くいえたかもしれない。
 彼女の見ていないことをいいことに、子供のように泣いた。まったく俺はどこまでも女々しい。本当に。母親に抱かれるように安心してしまうなんて、ほんとプライドねぇよなあ。

作品名:あなたにであう10年余り 作家名:桜香湖