まんまるい月の夜に
珍しく夕食の誘いを受けてくれた子供は心なしか口数が少なかった。
食事の後、宿まで送るというロイの申し出に、何も言わず歩き始めたエドワードの後を少し間をあけて追う。
今宵は満月。夜道に彼の姿が明るく照らし出される。
橋に差し掛かったところで、はたと立ち止まり天を仰いだ。
一歩、二歩。彼に近づく。
子供はひとつ息を吐くと振り返り呼びかけてきた。
「あんたのこと、好きだ」
月よりも美しい蜜色の眼差しがこちらを射抜く。
月明かりの中、彼の金と赤しか見えなくなる。
さらに一歩。
「…こういう時は“月が綺麗ですね”と言うものだ」
「――え?」
意味がわからずきょとんと見上げてくる顔も愛しい。
次の一歩で目の前に立つ。
「今夜はずっと一緒に居たいという意味だよ」
数瞬後、エドワードは零れ落ちそうなほど瞳を見開き真っ赤に顔を染めた。
「つっ、つきがキレイですねっ……」
そしてもう限界、というように固く目を閉じて俯いてしまった。
精一杯応えてくれた小柄な身体を抱き寄せ、月明かりに照らされた旋毛にそっと口付けた。
十五夜と満月が重なる希少な夜だった。