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シェアルーム・シェアライフ

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【君記念日】




 ここ数日、同居人達の様子がどことなくおかしいと蘭丸は感じていた。
 藍、音也、砂月は、決して仲が悪いという訳では無いのだが、アイドルという職業柄、寄り集まってどうこうというよりも、個人主義の傍ら、波長が合った時のみ近寄るという様なスタンスだ。勿論蘭丸も同じである為、同じ空間を共有していても、皆バラバラのことをしていることなど全く珍しいことではないのだ。
 それなのに、である。近頃、蘭丸はよく3人で居る彼らを目撃している。不自然でない程度ではあったが、それまで必要以上に馴れ合いをしてこなかった彼らが、突然顔を突き合わせて何事か話し合っているという状況が最早違和感だ。藍に探りを入れてみたのだが、「何でも無いよ。蘭丸の気のせいでしょ。」と返されてしまう始末。それとなく真斗やレン、嶺二などにも聞いてみたのだが、皆一様に「知らない」と返すのだからお手上げだ。
 疎外感を感じているであるとか、そういう話では無い。だが何か気になる。その答えを見付け出せないまま、蘭丸は日々を過ごしていた。


『悪いけど、帰りに買い物してきてくれない。』
 仕事が終わり帰宅しようとする蘭丸へ、藍からメールが入ったのは夕方であった。充実した疲労感で身体が重くなっている蘭丸は文面に眉を顰めたが、結びに記された、『お礼に蘭丸の好きなもの作って待ってるから。』の一言に、現金にも仕方がないといそいそと最寄りのコンビニに立ち寄った。コンビニの自動ドアを潜ると、店内BGMと共に店員による「いらっしゃいませー。」、の声が幾重にもなって聴こえてくる。ゆるりと視線を巡らせ、藍から頼まれた品物を手に取った。何故藍が、歯磨き粉のストックを切らずなどという事態を引き起こしたのか疑問に思えば、『それは音也の話。』と返された。納得、と1つ肯首し、割高の為滅多に寄らないコンビニのレジに行き、会計を済ませて外に出る。季節の移り変わりを感じる涼しい風が、ふわりと蘭丸の風を靡かせ去って行った。


「今帰った。」
 ドアノブを捻るが、どうしてか鍵が掛かっていた。藍達3人は先に帰宅している筈だがと、蘭丸は鍵穴に鍵を差し込む。何か用事でも出来たのだろうかと疑問に思いつつも、ゆっくりと扉を開ければ、やはり室内は消灯していた。
「んだよ、誰も居ねぇの?」
 リビングへ繋がる廊下を歩く足音が響く。ギシリギシリと鳴る音が、まるでホラー映像のワンシーンのようで、少しだけ笑いが込み上げた。職業病だろうかと、軽く眼を瞑る。自分の息遣いと空気を割く音、振動のみが、蘭丸という存在を彼自身の中で証明している。世界に1人、取り残されたようだと、栓無きことを考えてしまうのは、どこか哀愁を感じさせる秋という季節だからであろうか。
 取り止めのない思考も、数歩も歩けば終わりが見える。ゆるりと瞼を押し上げれば、空間を遮断するドアがそこには在った。取っ手に手を掛け、下ろす。僅かな軋みを伴って開いた扉の向こうには、オレンジ色に染められたリビングが広がっている、蘭丸はそう思っていた。


「「「Happy Birthday RANMARU!!」」」
 無の空間が広がるばかりと思い込んでいた所から、急な複数の破裂音と吹きつけられた何かに同時に襲われ、面喰った蘭丸は間の抜けた顔でその場に立ち尽くした。人の気配などしなかった筈だが、実際には藍も音也も砂月もそこに居り、お帰りと笑顔で蘭丸を出迎えている。
「・・・・・・は?」
「ちょっと蘭丸、いつまでボケてるの。」
「そうだよー、蘭丸先輩、今日の主役は蘭丸先輩なんだからね!」
「おい、少し待ってやれ、思考が止まってんぞ。」
 蘭丸の状態を冷静に分析した砂月が呆れの溜息を吐いた。その通り、蘭丸は現状況が把握出来ていない。
「いや・・・何・・・」
「一から説明しないと分かんない?蘭丸本当8bitだね。」
 混乱状態の蘭丸を見遣り、藍は出来の悪い子供を見るように腰に手を当てて胸を張った。その眼差しは、宛ら母のようである。
「今日は何日?」
「9月、29日。」
「そうだね!今日は29日だね!」
「アンタの誕生日、だな。」
 うんうん、と3人は一様に頷いている。徐に瞬きした蘭丸は、漸く、事態を理解した。
「俺の・・・?」
「そうだよ。」
「わざわざこんな、手の込んだことしたのか?」
 卓上には、蘭丸の好物である肉料理を始めとした、所謂パーティーメニューがずらりと並んでいる。そしてセンターには、見間違うことが無い程に大きなケーキ。御丁寧に”誕生日おめでとう”のチョコレートプレイトまで鎮座していた。
「料理はねー、少し前からマサに計画を伝えて、手伝って貰ってたんだー。」
「手作りが良いって、拘ってたからな。」
「蘭丸、僕達が気付いてないとか思ってるでしょ。バレバレだから。分り易過ぎ。」
 3月、『局の差し入れで貰った』と、並ばなければ買えない様な有名店のシュークリームを食べきれない程持って帰って来たことがあり。
 4月、『偶然だろ』と、蘭丸手製のカレーが食卓に並んだことがあり。
 6月、『奇遇だな。俺もこの曲好きなんだよ。』と、砂月がずっと探していた絶版となった古いレコードを持ってきてくれたことがあり。
 1つ1つ、偶然を装って蘭丸が差し出してきた祝福の気持ちを、彼らはきちんと受け取っていた。らしくない、柄じゃないと素直に認めたがらない蘭丸の気持ちを慮り、素直な感謝で答えた3人は、蘭丸の誕生日には目に見える形で、祝われてもらおうとずっと前から決めていたのだった。
「・・・・・・」
「蘭丸先輩?」
「あっ、珍しい。」
「良いから音也、お前座って主役待っとけ。」
 引き結んだ口元に寄せられた眉。一見不機嫌そうに見えるが、付き合いが長い藍と、他人の機微を悟ることに長けた砂月には、今蘭丸が、猛烈に照れていることに気が付いていた。豊かでない表情の裏側で、蘭丸が懸命に無様な格好を見せないように堪えていることなど、お見通しということだ。
 ドッキリ成功だね、と楽しげに笑う藍と、こんな程度で驚いててこれから先持つのかよ、と呆れた砂月の背を眺めて、蘭丸は手で口元を覆う。自分ですら忘れていた誕生日、何の変哲も無い日常が、非日常に一瞬で早変わりする、瞬間を、蘭丸は緩んだ口元で以て受け止めた。
「ありがとよ。」
 呟いた言葉は、彼の掌の中へ消えて行った。


 だが彼は、この後、広くも無い一室に同期後輩全員が集まり、蘭丸生誕記念日と称した大宴会が開催されるということを。
しょうもねぇPartyでも、付き合ってやろうかと思える位に、楽しい時間が待っているということを、まだ、知らない。