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いつか、きっと

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*



白を基調とした上品な内装の部屋に、凛はいた。
近くには全身を映せる鏡があり、よく磨かれているらしいそれは銀色に光っている。
凛はその鏡のほうに眼をやり、けれども、すぐに別のほうに視線をやった。
競泳の松岡凛は世界でもトップクラスの選手であり、整った顔立ちにきたえぬかれた身体というルックスの良さも人気に拍車をかけ、テレビや雑誌などで取りあげられることも多い。
そんなスター選手が、今、落ち着かない様子である。
スーツを着ていて、それは外見には格好良く決まっているのだが、表情には合っていない。
どんな顔をしてここにいればいいのかわからない、といった感じだ。
しばらくして、凛の正面にあるドアが開いた。
中から、出てくる。
入るまえとは違う格好をしている。
真珠のような光沢のある白いドレス。
繊細な刺繍がほどこされている。
その裾は長く、特にうしろのほうは床に大きく広がっている。
黒く静かな瞳が凛に向けられる。
「どうだ」
遙が問いかけた。
競泳の松岡選手が小学校時代の同級生と婚約したことを発表したのは三ヶ月ほどまえのことである。
プロポーズして、了承をもらって、周囲に発表して、それからは順々に進んでいくだろうと思っていたが、甘かった。
結婚するというのはなかなか大変であると、凛は実感させられた。
しかも、そのうち遙が結婚式に対する興味を失っていった。
入籍だけすればいいんじゃないか、と遙がいつもの調子で凛に言ったこともあった。
いやいやそういうわけにはいかねぇと、こだわったのは凛である。体面というのもたしかにある。だが、それ以上に、結婚という人生の大きな節目に最高の思い出を作りたい。
そう主張した凛に、遙は、まったくおまえはロマンチストだから、と言って、少しあきれているようだったが、結局は付き合うことにしてくれた。
こだわるの男女逆じゃない、と言ったのは渚だった。
そんなこんなを思い出し、さらに、これまでのことをいろいろ思い出した。
出会ったころまで、さかのぼった。
違うスイミングクラブに所属していたが市の大会で一緒になり、声をかけたのは凛のほうだった。
その後、凛は遙のいた小学校に転校し、遙のいたスイミングクラブに入った。
小学校卒業後、凛はオリンピックの競泳の選手になるという夢のためにオーストラリアに水泳留学し、大きな壁にぶつかった。
壁にぶつかった直後の冬に帰省した際、遙と偶然会ったが、心がすれ違って、別れた。
ふたたび再会したのは、凛が帰国して高校二年の春に鮫柄学園に編入したころだ。
妹の江から、かつて凛と遙が所属していたスイミングクラブが取り壊されると聞いて、その裏庭に埋めたタイムカプセル、思い出の品を取りに行って、出くわした。
江からはスイミングクラブが取り壊されると聞いただけで、あのとき遙たちが来るとは予想してなかった。
大きな夢を思い描いて、それを現実にしようとして、壁にぶつかり、挫折を味わった自分。
昔とはすっかり変わってしまったことを自覚もしていた。
思い出の品が失われることを心配して回収しに行ったのに、遙たちを眼のまえにして、それを捨ててみせた。
あのころの自分は遙たちにひどい態度を取っていたと思う。
特に遙に対してそうだった。
遙を振り回した。
うらやましかった。
大きな夢を実現したくて努力しても、その夢は自分が思い描くのには分不相応なものではないのかと不安にかられた。
一方、遙はまるで水に愛されているかのような綺麗な泳ぎをした。自分がどれだけ努力しても手に入らない天賦の才を持っているように見えた。
だからといって、ひどい態度を取っていいわけではない。
だが、それでも、遙は自分を待っていてくれた。
そして、自分はふたたび夢に向かっていく決心をした。
遙にこだわっていたのは、遙の向こうに水泳を見ていたから。
そう思っていたが、結局のところ自分は遙に惹かれていたのだと気づいた。
振り返ってみれば、市の大会で声をかけた時点で、惹かれていたのだろう。
自分の中に恋愛感情があると気づいてから、なかなか素直になりきれなかったり、相手が天然だったりで、恋人関係になるまでには紆余曲折があった。
恋人同士になってからも、いろいろあった。
それが、今、ここまできた。
「凛」
遙が呼びかけてきた。
「いつかこうなるとはわかってた」
いつもの声で遙は言った。
「でも、早すぎるだろう。ドレスの試着で泣くなんて」
「……っせえよ」
凛は乱暴に言って、身体ごと横を向く。
気恥ずかしかった。泣いているのを見られたくなかった。
その凛の腕に、遙の手が触れた。
遙が距離を詰めてきて、問う。
「それで、感想は?」
「綺麗だ、に決まってんだろ!」
凛は遙のほうを見ないまま、噛みつくように答えた。






きっと、結婚式では真っ先に号泣する。










作品名:いつか、きっと 作家名:hujio