最近、妻が冷たいの
【最近、妻が冷たいの】
小さいころからお隣さんで、年も同じ、趣味のバスケも一緒だった高尾和成と緑間真太郎がお互いを意識しはじめたのは中学1年の冬頃だったと思う。
出会いはそれこそ二足歩行を始めるよりも前だったが、それまでは他の子よりも『特別仲が良い親友』といった感じであった。
何をするのも一緒。緑間が「高尾、」と呼んだら「あぁ、これ?」と高尾が答える。同じ部活に同じクラス。高尾が鍵を忘れても「じゃあ今日真ちゃん家に泊まっていい?」「あぁいいぞ」という感じ。
まさに周りから見たらおしどり夫婦といった雰囲気なのだが、これで付き合ってなかったのだから驚きだ。
一度、中学1年のときに、高尾と緑間が付き合っているという噂が流れたのだが、緑間は「そもそも、高尾にはちゃんと彼女さんがいるし、男同士という大前提があるのだから付き合っているという方がおかしいのだよ?」と一刀両断。高尾も爆笑しながら「ぶっはwww確かに真ちゃんは美人で可愛くて天然で電波ちゃんだけどさwwそれはねーわwwww」と否定。よってこの噂は一週間もたらずで消え去ったのだが…
それが『特別仲が良い親友』から『恋愛対象』に切り替えるきっかけとなった。
それまで全くそういった方向に無関心だった緑間は、高尾と目を合わせることも恥ずかしくなり、抱きつかれることや同じ部屋にいることさえも出来なくなってしまった。最初は噂のせいだと思っていたのだが、笑いかけられるとどうしようもなく顔が赤くなって心臓がきゅぅっとしたり、真ちゃんと呼ぶ声が愛おしく感じたりするのを自覚してからは、これが俗に言う「恋」というものだと理解し、受け入れることにした。
そして高尾は、突然自分を避けるようになった緑間が心配で、とても気になって夜も眠れないほどとなった。彼女からは振られてしまい、いままで以上に緑間に目を向けるようになってからは、名前を呼ぶたびに顔を赤らめたり、手と手が触れるたびに大きな体を揺らす彼を愛おしいと思うようになった。そして自分が緑間を「恋愛対象」として見ていることにきづいてからは、「スキ」という言葉が喉の奥からとめどなく溢れそうになった。
好きで好きで仕方がない、でも男同士だし、もしかしたら相手に引かれてしまうかもしれない、でも気持ちを伝えたい。
そんな気持ちをお互いに押し隠しながら、気づけば中2の夏。
二人を取り巻く空気の変化に真っ先に気づいたのは、緑間と高尾の両親であった。
緑間家の親(赤司お母さんと紫原お父さん)は、高尾家の親(宮地お母さんと大坪お父さん)と話あった結果、二人の背中を少し押してやろうということで落ち着いた。
「真太郎、」「和成、」
「なんなのだよ?」「んー?何?」
「「伝えたいことがあるなら、想ったときに言わないと後々後悔してしまうぞ」」
この言葉に背中を押してもらった二人は、やっとのことで気持ちを伝え合い、そしてお付き合いをはじめることとなった。
最初こそ清いお付き合いを続けていた二人だが、高1の夏に、ついに高尾が「俺としては早くあんなことやそんなことをして、最終的には18で結婚したい…」ということを打ち明けた。緑間はすぐに「そんなことなら俺だって思ってるのだよ」と同意をしたが、両親が許さなかった。
「僕の真太郎と付き合っているだけでも腹立たし…げふん、結構譲歩しているのに10代で結婚なんてそんなのオヤコ「みどちん行っちゃうのやだしー!」
「あ?人様のお子さん嫁にもらうのだってかなりの覚悟が必要なのにそれを10代で済まそうとかまじ轢「…高尾、もう少し遅くてもいいんじゃないか?」
と、なかなか頭を縦にふってもらえず、肩をおとしていたのだが「ならば、20になったら・・・結婚してもいいか?」という緑間の言葉でなんとか頷いてもらえたのだった。
高校三年間とさらに2年。
高尾は就職し、緑間は大学へとすすんだこの五年間。進展したのはキスがフレンチからディープになったことと手をつないで寝れるようになったこと。高尾にとっては据え膳をずっと食らわされているような状況からやっとのことで迎えた20歳の冬。
ついに高尾と緑間は結婚をしたのだった。
「…で?僕には惚気られているようにしか見えませんが?」
それまで口を挟まず、じっと耳を傾けていた黒子テツヤはバニラシェイクを啜りながらげんなりとした様子で口を開いた。
せっかくの休日、読書でもしようと図書館まで足を運ぶ途中に高尾とばったり会ったのが運の尽きだったらしい。「話聞いてくれない?」といわれてマジバに入ってはや1時間、帰りたい。
「惚気てねぇし!!ってか、本題はここから!」
嘘でしょうまだ本題に入る前だったんですかバk…高尾君。僕はもう帰りたいんです。そしてこの人様の惚気話を散々聞かされて憔悴しきった体と心をマイスウィートエンジェルこと火神くんに癒してもらいたいんですよバカ尾…高尾君。
言いたいことが山ほどあるが、一応元チームメイトであった緑間の夫だ。あっさり切り捨てて帰ることも出来ず、結局話を聞く形となる。
「…それで、どうしたんですか?お話を聞く限りでは幸せな新婚さんじゃありませんか。」
「だよな!俺もすっげー幸せだったんだわ!!だって朝起きると隣には可愛い寝顔の真ちゃんが居て俺の高尾君が高尾山になりそうだし、仕事行くときも『いってらっしゃいなのだよ、かずなり』っていってくれて襲いそうになるし、帰ってきたら不器用なくせに一生懸命二人分の夕飯用意してくれてて先に真ちゃん食べたくなるしで俺は「そ れ で ?」
このままでは埒が明かないと、話を促す黒子。
もうこの新婚爆発しないかな、と思いつつジトッと高尾を見つめたところで、ようやく愛妻の可愛さを語るのを止めた高尾は「…あのさ」と、やっと本題を切り出した。
…切り出した、はずなのだが。
「頼む黒子。しばらく俺と不倫してくれね?」
火神君、僕はもう帰りたいです。