aph 『紅葉日記』
『 十月十一日 はれ 』
ヨーロッパの皆さんをお迎えして紅葉を楽しむという企画は、初日についてはまずまず上手く行ったと思います。
しかし、二日目の今日は大変でした。
皆さんとすすきのへ向かって歩いていると、突然どこかで聞き覚えのある、ケセセセセ……という高笑いが耳に入ってきたのです。
まず、イタリア君が、時計台のトンガリ屋根を指さして「鳥だ!」と言いました。見ると、はっきりとは確認できないのですが、ふわふわした黄色い鳥がでっぷりと巣に居座っているようでした。東京名物「ひよこ」のような、横浜名物「ハトサブレ」のような、そんなずんぐりむっくりした鳥です。
直後、フランスさんが「飛行機だ!」とおっしゃいました。黄色い鳥越しの向こうの空には、たしかに飛行機が飛んでいます。
正直なところ日本航空の経営が厳しく、日本エアラインとの合併の噂までたっているこのご時世に、飛んでいたのはAIRDOのようでした。
最後に、ドイツさんが「兄さんだ――!」と叫び、他の皆さんが「プロイセンだ――!」と叫びました。そう、時計台のトンガリ屋根に登って笑っていたのは、鳥でも飛行機でもなく、プロイセンさんだったのです。
私は思わず「なんでまた、そんな低い所に?」と尋ねました。周囲は背の高い近代的なビルが立ち並んでいるというのに、時計台の屋根など昇っても眺めも好くありませんし、何より、記念写真を撮るために順番を待っている皆さんの迷惑になっています。
プロイセンさんは不服げにお答えになりました。
「さっきあっちの方で一番高いJRタワーとかいうやつの上からカッコ良く小鳥のように現れてみたんだけどよ! お前ら小っちゃ過ぎだぜ」
――場所が高過ぎて誰も気付きませんでした。
「なんでも、アスティ何とかってビルで俺様のファンが集まるっていうからな!直々に来てやったわけだ。『ぷろしあん』とかいうイベントでよー」
不敵に笑うプロイセンさんは、どうやらサイトジャックに飽き足らず、イベントジャックしにいらしたようでした。
「でも、その恰好では会場に入れませんよ。コスプレだと見なされてしまいます。それに……」
私が、そのイベントは「ぷろしあん」ではなく「ぷちしあん」だと思いますよ、と教えて差し上げると、地下のパン屋さんでいくつかのパンと飲み物を買われ、「ひとり美味しすぎるぜ……」と呟き、お帰りになりました。
(ちょっとしょっぱい、ともおっしゃっていました。)
その後私達は、すすきの方面に向かう途中でフランスさんが「ちょっとだけ見ていきたい」とおっしゃった、オタクショップの集まるビルに見学に入りました。
みなさんしょっぱい顔をされていました。
なぜですか!
おわり
...つづくかも
作品名:aph 『紅葉日記』 作家名:八橋くるみ