はるのうた。
「眠いの?」
寄り添うきみは。
きっと、知らない。
「まだ、だいじょうぶ」
小さく吐き出されたその声は、意思とは別に伝えられて。
風のにおい、草のにおい、土のにおい、花のにおい。
それは、眠りを誘うには充分過ぎるもの。
その大きな瞳は、幾度かのまばたきを繰り返し、何を見ているわけでもなくただぼんやりとしていて。
「お人良しにも程があると思うけど?」
溜息と少しの皮肉の言葉。
「それ、褒めてないでしょ」
しばしの沈黙の後、ゆっくりと返される。
「間違っても褒めてない」
ほんの少しの、苛立ちが見え隠れする。
自然と口調にも現れるようで。
ふと、隣に目をやると、ぷくっと頬を膨らませた幼い表情が見えた。
怒らせた、かな?
ホント、らしくないことしてる。
少しだけ、後悔した。
草木の緑に、空の青。
小さくも力強さを見せるは黄色。
飾られるよう、鮮やかに咲き誇るは赤。
何処までも穏やかで、何処までもやわらかい。それから……、
「ルックって、やさしくない」
ぽつりと。それでも、肩越しにははっきりと。
さっきの仕返しにとばかりか、するりと風とともに抜けていったその声。
はっきり言って。
自覚はしていることだから、面と向かってそう言われても大した感情は沸き上がらない。
言われる相手を除いては。
「でも、あったかいね」
何の躊躇いもなく、紡ぎ出された言葉。
少し驚きながらも隣に目を向ける。
伏せられた目と、やわらかく浮かべられた微笑み。
そう、伝わってくる体温はたしかに温かく。
けれど、そのぬくもりは僕ではなく、きみで。
この手は、僕より少し小さくて。
僕よりもずっと温かい。
「疲れてるのなら、部屋まで送るよ?」
自分でも、驚く程素直に出てきたその言葉は。
「もう少しだけ、このままでもいい?」
ほんの少し甘えを含んだ声に遮られて。
そうして、ゆるやかな時がただ流れて、空に浮かぶ一つ一つの雲を眺めながら。
居心地の良さを感じていたのは僕の方で。
「どこかの軍主サマに見つかったら、面倒なことになりそうだけどね」
呟いた言葉は、誰の耳にも届いてないようで。
もう少しだけ──。
なんだか、くすぐったいような感じがして。
自然に笑みが零れた。
あったかい……ね。