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たとえばそれが愛でもいいと思う

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それは、ぽかぽかあったかい日のことでした。





「ティ~ルさん! …あれっ?」

とても良い天気なので一緒にピクニックに出掛けようと思って、

いつものように部屋のドアを開けました。

目に映ったのは、テーブルにうつ伏せているティルさんの姿。



「ティルさん?眠ってるんですか…?」

思った通り、返事はありませんでした。

開かれたままの本のページが、パラパラと音を立てています。

少し甘いような春の風の匂いがします。

足音と立てないよう、眠ったままのティルさんの側に寄ってみました。

起きる気配はなく、静かな寝息を立てるティルさん。




風に揺れている、艶のある黒髪。

透き通るような白い肌。

その姿はまるで造られた人形のようで――。






「もう、ティルさん。無防備ですねぇ…」

どんな小さな仕草でも

「この城には、ティルさんを狙う人たちでいっぱいなんですよ?」

素敵だと、愛しいと思うのはきっと……

「…って、僕もなんですけどね」

きっと…、この気持ちがウソじゃないから……。






そっと、その横顔に手を伸ばしてみる。

指先から、ほんの少し伝わってくる温もりがとても嬉しくて……。

「初めは…、憧れっていうか尊敬してただけなんです」

自分にはないものを持ってる人だと思ったから。

「冷静で、僕なんかよりずっと大人なんだと思ってました」

トランの英雄。

あなたを見る時はいつもその言葉があったから。

「でも…、本当のあなたは……」






穏やかで、とてもやさしい

人を惹きつけるその瞳。

けれど、その瞳は深い深い悲しみを知っている。



今もティルさんは想ってる。

失ってしまった大切な人のことを……。



あの人の代わりにはきっとなれない。

それでも、僕は……。



「う…ん……?」

「おはようございます、ティルさん」

ゆっくりと起き上がったティルさんに、僕はにっこりと微笑みかけました。

「あれ…? フレイ?」

眠気まなこのその瞳が、ぼんやりと僕の姿を映しています。

「寝跡。付いてますよ?」

自分の右のほっぺたに指差して見せると、

ティルさんは少し恥ずかしそうに顔を擦りました。

「いつ…、来たの?」

ほんのり頬を赤らめてティルさんが尋ねました。

「だいぶ前から。ずっとティルさんの寝顔、見てました」

「フレイ……。それ、趣味悪いよ……」

「冗談ですよ。ついさっき来たとこです」

ますます顔が赤くなるティルさんに、冗談っぽく笑ってみせると、

ティルさんも困ったように微笑みました。

「あ、でもティルさんの寝顔に見惚れてたってのは本当ですけど」

「…………」

「顔、真っ赤ですよ?」

「だって、フレイが……」

「ふふ、冗談です」

半分は本当ですけど。

「えっと、何か用があったんじゃないの?」

僕から目をそらすと、ティルさんは言いました。

「天気が良いからピクニックに出掛けようと思って。

でも、今から行ったら遅くなりますね」

「ごめん、僕のせいだね…」

「いえ、そんなつもりで言ったんじゃないです」

「うん…」

ほんの少し、顔が曇ったのが分かる。

いつもとおんなじ。

自分のことには鈍感なくせに、人のことばかり気にしてる。

「せっかくだから、ナナミやルックも誘って皆で行こうか」

少しの沈黙の後、ティルさんはそう言いました。

「そうですね。今日はピクニック日和ですし」

とは言うものの、本当は二人で行くつもりだったのはここだけの話。

「うん? 何か言った?」

「いえ、何でもないです。あ、そうだ! 僕、今からお弁当作りますね」

「じゃあ、僕は皆を誘ってみるよ」

いつものようにふわりと微笑んで、ティルさんはそう言いました。





その微笑みが見たいから

暖かなその微笑みを見ていたいから



あなたの傍にいたいと思った

あなたを守りたいと思った



この気持ちはウソじゃないから…



そう。それはぽかぽかあったかい日のこと―。