まこはるちゃん書いてみた
夏の遅い夕暮れ刻。
橘真琴は七瀬家の玄関横のインターフォンを鳴らしていた。
「ハルー、いるんだよねー?」
いつもの優しい声で呼びかける。
しばらくして、廊下を歩く足音が聞こえてきてそれは玄関の戸のまえまでやってきた。
引き戸が開けられる。
あらわれたのはもちろん遙だ。
真琴と同じく、岩鳶高校の制服を着ている。
遙はいつもの無表情でなにも言わない。ただ少しだけ頭を揺らした。
その動作だけで、長い付き合いの真琴には、入れ、ということなのだとわかる。
真琴は家の中に入り、遙についていく形で居間に行った。
年季の入った生活感の漂う居間の畳に真琴は腰をおろした。
遙は台所のほうへ行った。
やがて、盆にグラスをふたつ乗せて居間にもどってくる。グラスには麦茶が入っている。
遙は真琴の近くに腰をおろし、机にグラスを置いた。
「ありがと、ハル」
にこっと笑って真琴はグラスを手に取って、麦茶を飲む。
夕暮れ刻とはいえまだ暑く、それに石段をのぼってきたこともあり、よく冷えた麦茶は身体に気持ち良かった。
遙は真琴とは机の角を共有する位置、台所を背にする場所に座り、やはり麦茶を飲んでいる。
いつもの無表情だ。
真琴は空になったグラスを机に置きつつ、その遙の横顔をじっと見る。
「ハル、今日、いつのまにか先に帰っちゃったよね?」
あくまでも優しく問いかけた。
遙は机にグラスを置いた。まだ少しだけ麦茶が残っている。
相変わらずの無表情。
いや、微妙に違う。
なにか思うところがあるらしいと真琴は感じ取る。
マイペースな遙が気まぐれで先に帰ったのではないようだ。
真琴は待った。
すると、しばらくして、遙がグラスのほうを見たまま真琴を見ずに口を開く。
「もう、一緒に登下校するのはやめようと思う」
「なにかあった?」
そう聞かれて遙は黙り、けれども少しして、また、口を開く。
「違うクラスの女子に真琴と本当に付き合っていないのか聞かれた。だから付き合ってないと答えた。でも、いつも一緒に登下校しているから付き合っているように見えると言われた」
遙は淡々と話す。
「まえにも何回か似たようなことを言われたことがある。どうやら、おまえと付き合いたい女子が結構いて、気になるらしい。だから、誤解されるようなことはやめようと思った」
「うーん」
実のところ、真琴にさり気なく聞きに来る女子もいる。
それだけじゃない。
七瀬さんと本当に付き合っていないのかと真琴に聞きに来る男子もいる。
真琴は考える。
そして、心を決めた。
「……ハルにその気がなさそうだし、まだ時期じゃないかなと思ってたんだけど、そろそろ、はっきりさせるね」
遙が真琴のほうを見た。
その瞳を見て、真琴は言う。
「俺はハルが好きだ」
ストレートに告げ、さらに続ける。
「だから、付き合わない?」
遙は黙っている。
無表情だ。
しかし、真琴には遙が考えているらしいことがわかる。
しばらくして、遙は口を開いた。
「面倒くさくないなら、いい」
「ほんと?」
真琴は顔をパッと輝かせる。
「良かったー」
嬉しくて、それがそのまま言葉になり、顔にも出る。
その真琴の顔を遙は無表情で眺め、だが、ふと、ほんの少しだけ顔に笑みを浮かべた。
作品名:まこはるちゃん書いてみた 作家名:hujio