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グロウアップ・デイズ

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その1



『だからお前も、オレを好きになればいい』
 数日前にウサに言われた言葉が、ずっとループしている。
 ウサもトラと同じくマスターはバーナビーで飼い主は虎徹であるはずだ。マスターであるバーナビーの影響を受けていると自覚もしていた。それに、以前トラにキスをして不毛だと言ったはずだ。それなのに、である。やはりウサには深刻なエラーが発生しているのではないかと心配になった。
 そこまで思案して、ふとあたりに異臭が漂っている事に気がついた。出どころは手元のフライパンで、トラは急いで火を止める。虎徹の夕食のリクエストだった大判のハンバーグの半面が、焦げ付いてしまっていた。
「……」
 \\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\"また\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\"である。ここ数日、ウサのことが付きまとって家事全般に集中できていなかった。アンドロイドにとって業務を遂行できないということは、致命的である。ぎゅ、と胸のあたりが苦しくなる。そっと抑えて過ぎるのを待つと、トラはこんがりとやけたハンバーグを見つめながら、対処方を探し始めた。

 定時刻を見計らったかのようにヒーローの出勤要請があり、虎徹が家に帰る頃にはだいぶ遅くなってしまっていた。夕刻の時点で既に空いていた腹がヒーロー活動でさらにカロリーを消費したため、帰り路はふらふらだった。
 そういえば夕食にハンバーグをリクエストしていたな、と既に怪しい朝の記憶を思い返しながらただいま、とリビングのドアを開ける。と、目に飛び込んできた状況に一瞬虎徹は固まってしまった。
「あ、虎徹さんおかえりなさい」
「おかえり、コテツ」
 ソファに座ってにこやかに出迎えるバーナビーのその膝にはトラが寝転がっている。いわゆる膝枕だ。
「なに、やってんの…?」
 俺だってまだそこまで甘えた事ないのに、と動揺を押し隠しながら虎徹はなんとかそう絞り出す。
「トラのシステムの簡易チェックです。どうしてもと頼まれたので」
「あぁ、そう…」
 気が抜けた声で返すと、どこからともなく空腹を主張する音が聞こえてきた。さては自分の腹が鳴ってしまったかと虎徹が腹を擦っていると、バーナビーの膝からむくりと起き上がったトラが今準備する、と言い置いてキッチンに向かって行った。簡易チェックはどうやら終わったらしい。全く出来た家政夫だなとしみじみ思っていると、バーナビーがどさりとソファに寝転がった。
「お腹、すいた…」
 その弱々しい声音に思わず、お前かよと虎徹はつっこむ。壁の時計は夜の9時を過ぎているのに。
「まだ食って無かったのかよ?」
「僕の帰りも遅かったし、やり始めたら集中してしまって…」
 はぁ、と疲れたため息をこぼすバーナビーの隣に腰を下ろすと、もそもそと腰に巻きつかれた。
「んで? トラ、やっぱりまだ直ってなかったのか?」
「今のチェックでは何も異常はありませんでした」
「そうなの?」
 先日ウィルスに感染したというトラがメンテナンスの為ラボに戻っていた。ところが、そのメンテナンスを終えて帰って来たというのに、最近様子がおかしいのだ。皿を割ったり、料理の味付けが大変な事になっていたり、飲む酒の瓶の数をこっそり増やしても何も言われなかったり。そんなことはこれまで一度も無かったから、トラのメンテナンスが十分では無かったのかと思っていたのだが、バーナビーの調べではそうでは無いらしい。
「じゃあどういう事なんだ?」
「それは…」
「コテツ、マスター、待たせてすまない」
 トラが夕食を運んで来たので、虎徹はバーナビーを引き起こして話を一時中断させる。

作品名:グロウアップ・デイズ 作家名:くまつぐ