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一点の光 【藤と赤司】

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帰る場所に明かりが灯っていること。それは、その人の居場所であるということ。俺は居場所が、ひとつだけと定められているとは思っていない。最初は家族。隣人に友人、チームメイトに、恋人。糸が増える度、居場所も増えるんじゃないかと……俺は、そう思う。手を伸ばした先に光がある……それを幸福と呼ぶのではないか、とも。今いる場所が影で、後ろに手を伸ばそうが、日も届くだろう。でも、先に進まないという選択肢は、どうせ選べないのだ。躊躇う内に、日も影に覆われる。その時その時の判断が必要とされている、だなんて。それでは、不安が身を駆けるだけに終わる。だが、背を押す光があれば。一瞬の眩しさに目を瞑ってしまったとしても。

新たな居場所に、心は知らず弾むから。


「ねえ君!柔道部とかどう!?体格いいしすぐに……」
早くも新入生勧誘にごった返す合間を、その対象である今年入学した小暮藤は、抜け出すことができずにただ流されるままに進む。彼は俗に大男と該当される類で、それ故身軽に切り抜くことができないのだ。そして案の定、捕まってしまった。どうやらマネージャーらしい女子生徒に声をかけられるも、藤にはすみませんとしか言いようがない。
「何か入る予定の部活でもあるの?だったら、掛け持ちでも……」
それにも、藤は巨体を折り曲げて丁寧に断ってみせる。
「誘ってくださったことには感謝します。ですが、俺はこの身を捧げたい部活があるので」
まっすぐに相手を見据えてみせた藤に、相手は慌てて手を前にふる。
「いや、大丈夫だから!ごめんね!」
藤はもう一度頭を下げた後、また歩き始める。
「あのさ、君……」
そして律儀な藤は、また丁寧に断らねばならず……
「ああ違う、勧誘じゃないよ。だって僕も新入生だし」
藤は、思いっきり脱力する。
「話がしたいんだけど……まずは、ここを抜け出すことから始めよう」
「すまないが、この体格のせいで俺にはそれが難しいんだ」
ちらり、と藤よりいくらか小柄な少年は、こちらをみる。
そよぐ風になびく、紅葉に似た髪が、今の季節とどこか不釣り合いな印象を受ける。
整った顔に収まった瞳は、片方の色素が薄い。美少年と形容しても良いのだろうが、童顔な面持ちとまた偏った覇気が、どこか一般人とはかけ離れているように思える。

藤は、この顔を知っていた。

勿論、実際に会話を交わしたのは、これが初めてではあったが。
「大丈夫。心配しないで、僕に続いて」
藤が何かを言う前に、少年はいうと浪間をいとも簡単に進んでいく。後ろに続いた藤も、不思議と前へ進む。藤は、真剣な表情で少年をみた。


「僕の名前は赤司征十郎。君の名前は…小暮藤、だろう」
確信に満ちた声で語られ、藤は頷く。
「……なんで、俺の名前を知ってるんだ」
口角をもちあげて、赤司は答えた。
「知ってるもなにも。君はあの界隈じゃ有名じゃないか」
お前のほうが幾分か上だ。言おうとしたが、やめた。
「…で、君も入るの?」
どこに、なんて聞かなくても分かった。
「バスケ部、だろ。入るよ、そりゃあ」
そう、と赤司はまた笑ってみせる。
「フジって呼んでもいいかな」
「…ああ、構わない」
「じゃあよろしく、フジ」
右手を差し出して、赤司は言う。
「君の”マネージャー”力……頼りにしてるよ」
藤は、赤司の目をみた。
まったく、笑っていない目を。

作品名:一点の光 【藤と赤司】 作家名:涙*