冷え込む朝に
寒い。
冷え込む朝では刺さるような寒さと引き換えに、済んだ空気を思い切り吸い込む。時計を見るとまだ八時前。集合にはあと三十分もある。
感傷に浸ってるのか家にいるのが落ち着かず、待ち合わせの校門前で腰を掛けていた。
新人戦初戦。本選は年明けからだというのに、秋に切り替わりコートを羽織るか迷う時期に行う、気の早い予選。平日の住宅街には朝の散歩をする人たちくらいで、平日の中学生の賑わいは見られない。
ずっと、自分の手を引くように先を歩いていた男を思い出す。見透かしたような目でこちらを見据えてくる男。胡散臭い眼鏡がどうにかならないものかと常に思っていたのだが。
その、今吉の最初で最後に見た背中が酷く印象的で、今でも記憶に焼きついていた。ずっと真正面から向き合ってきていた男が、自分に構っている暇もなく敵と相対していた姿。背中で語るとはこのことなのだろうと実感したのは初めてだった。
もっと自分を見ろ、よそ見しているなよ。そう思う半面で、その背中に見惚れてしまったのだ。目を離したくない、その姿をずっと焼き付けたくて仕方がなかった。真正面を向いて欲しいはずなのに、振り向いて欲しくないという矛盾した感情に心中が埋め尽くされる。
自分がどう思ったって、今吉はこれから振り向くことはないだろう。高校という先の舞台を目指して、振り返らずに歩いていくのだろう。花宮にお前も来い、と背中で語りながら。
ああ、悔しい。
そうやって自分が正しくて後輩がついてくることを信じきっている今吉も、それについていきそうになる自分自身も。花宮は嫌で嫌で仕方なかった。
絶対に、追いかけてなんかやらない。
俺は、あんたのいない、あんたと別の道を歩むんだ。