初風と舞風
「ここの所、休み無しで出撃していたからな」
そう同型艦の部屋で話すのは、妙高型重巡の艦娘『那智』である。
「その分、間宮さんにご迷惑をおかけしていたって事ですよね、ごめんなさいって言わないと」
同じ姉妹の重巡である『羽黒』はただでさえいつも申し訳なさそうにしているのに、その肩を更に縮めていた。
要するに、秋のイベント海域、アイアンボトムサウンドにて連続で出撃するために間宮さんに何度も料理をお願いしていたために、その負担で倒れたのである。
「羽黒、こういうときは暫く寝かせてあげた方がいいわよ。間宮さんって尽くしすぎた感じがあるから、今何度も出撃して戦っている私達が顔を出したら、却って申し訳なくするわ」
姉妹の三女『足柄』は羽黒の言葉に対し、優しく否定を返した。
「そ、そういうものでしょうか」
「うむ。まだ敵戦力の掃討も出来ていない中、我々が顔を出したらきっと辛い顔をすると思うぞ」
敵戦力には大分損害を与えたものの、あと一歩というところで敵深海棲艦の首魁『飛行場姫』にトドメを刺し損ねている。長期戦になればなるほど、出撃している艦娘の疲労も深刻になる以上、誰かにしわ寄せがいくのは当然であった。
「同じく出撃している金剛型戦艦の方々や私達だけの問題ではありません」
そこでぴしゃりと言いはなったのは、長女の『妙高』であった。
「待機している大勢の艦娘達の事、忘れてはなりません。食事に関して言えば、朝昼夜とつくってくださる間宮さんが私達のせいで倒れているのです。彼女たちの事も考えてあげなければなりません」
「では鳳翔さんに頼むか? 最近居酒屋をやっているというが」
那智は妙高に対し、建設的な提案をしたつもりだった。しかし
「なりません。そんなことをすれば、間宮さんが倒れてしまうのと同じように、鳳翔さんも倒れてしまいます。誰か一人に何度も同じ負担をかけるわけにはいきません」
同室で聞いていた内の一人が、若干感心したように呟いた。
「私、珍しく妙高姉さんが天然じゃないところ見たわ……」
「それはちょっと酷く……ないです?」
幸い、その言葉は妙高の耳に聞こえなかったようである。
「ではどうする、私達が自分で自炊するか。別に構わないが、私達も先ほどの出撃で結構疲労しているぞ。本音の所言うと、今すぐにでも休みたい。自己中心的だがな」
「若干心苦しいですが、その通りです。ですから、皆様に少しお力添えをしてもらわなければならない、というのが悲しい事実です。ですが、大丈夫です」
「何か方法があるのかしら、姉さん」
待ってましたとばかりに、彼女は自信たっぷりに言った。
「伝手があります」
「あの、何故、私達がつくることになってるんでしょう……」
「朝、眠い……。夜戦にも連れていってくれないし、気がついたら神通と一緒につくる羽目になってるし本当に訳分からないわ」
そして早朝。間宮が普段使う台所に立っていたのは、川内型軽巡姉妹の二人、川内と神通であった。
「神通姉さんなら、おしとやかだしつくれそうだと思ったの、いけないの?」
と、軽巡の二人に横柄な態度で指図しているのは、陽炎型駆逐艦の初風である。
「ちょっと、なんで私が入ってないのよ」
「川内姉さんは、その、なんていうの。朝に弱そうだからてっきり……」
「本当の事を言われて悔しいわ。すごい傷ついた……」
「あの、本来は突っ込む場所そこじゃないと思うんですけど、姉さん」
神通はちょっと不安げにそのやりとりを見守りつつ、割と手慣れた雰囲気でサンマの下処理をしていた。
「大体、どうして那珂はいないのよ……。朝に弱いって分かってて私を駆り出す神通もそうだけど」
「あの娘には『アイドルは料理できないドジっこほど萌えるんだよ!』とか何とか言われて」
「なにそれ、わけわかんない……あと神通、無理して声真似しなくていいわ……折角のおしとやかさが台無しよ」
眠気でぼけている彼女が呆れ顔になったのは言うまでもない。
「勿論、流石にちょっと姉として一言言いました」
「なんて?」
「次発装填済み、酸素魚雷用意できてるけど、と」
「それ一言どころか脅しじゃない」
「で、朝食作れそうなのはこの子しかいないよ、って言われたんで、四水戦のこの子を」
そう呟いて、隣を見るよう川内に促す。神通の隣には金髪で如何にも明るく、鶏肉に衣をつけて揉んでいる舞風であった。いや、陽気というより、寧ろステップを踏むように、であろうか。
「いっつも七時ぐらいにご飯つくってますから。他の皆も楽しくつくりましょう!」
「彼女、朝も夜も強そうよね。時折見るけどいっつも陽気だわ」
「というか、妙高さんとはスラバヤ沖でも一緒に戦った仲ですし、直接言ってくれれば良いのに、何ででしょうね」
「ああ、えっとそれは、まぁ色々あるんじゃないかしら……」
神通の素朴な疑問に対し川内は妙に引きつった笑顔で返答した。
「あんまりその話しないで欲しいわ……怖いのよ」
台所の隅で一人少し青ざめた表情をしながら立っている初風に
(未完)
作品名:初風と舞風 作家名:yumemitasi