レジェンズ小話
First Kiss
ブルックリン・ブリッジから初日の出を見ようと、いつものあの調子で押し切られた。
N.Yっ子なら、カウントダウンの方が大事な気もするが、アレはアレですごい人だからちょっと行きたくない。
だから、結局妥協して待ち合わせ場所に向かう。
「よー。遅いぞ」
どこから出してきたのか、ニホンのキモノを着たシュウが手を振っている。
「……寒くないのか?」
ダウンジャケットが手放せない気温だというのに。案の定、シュウの吐く息は白い。
「せっかく母さんが着物出してくれたから。でも、着物って股がスースーするんだよなー」
股以外にも、色々寒そうに見える。仕方なく、自分の使っているマフラーを解くと、シュウの首にかける。
「使っていろ。この後、マックたちとニューイヤー・パーティだろう。彼らを心配させるな」
「お前は心配しないのかよ」
ケラケラ笑いながら返されるが、大体、心配かけるような格好で来た方が悪い。
「自業自得な奴を心配する暇なんかない」
ひんやりとした橋のフレームに凭れ掛かり、まだ薄暗い空を見上げる。
周囲には同じように日の出を待っているのだろう人々がいて、すぐ隣にはシュウがいる。
悪くはない年明けだと、口に絶対出してはやらないがそう思う。
「なー、ディーノ」
同じように空を見上げているシュウが声をかけてくる。
「なんだ」
ちらりと横目で見ると、彼はとてもうれしそうに笑っていた。
「俺、すげー今幸せ」
「……なっ」
不意打ちもいいところだ。真っ赤になった顔を自覚して、慌てて横を向く。
「ディーノはどうなんだよ? ん? 言ってみ?」
背後から、覗き込むように聞かれて、その黒い頭を思いっきり殴る。
「ったーっ! お前、ひどいぞっ」
「やかましいっ」
痛そうに頭を撫でていたシュウの手が、ダウンジャケットに伸びてくる。
「幸せだろ?」
襟を掴んでぐっと引き寄せられる。シュウの顔には、確信犯の笑みが浮かんでいる。
「……」
知っているなら、答える必要はない。
代わりに、寒さでかさつく唇を重ねる。
最初のキスを交わしたとき、空に一条の光が射した。