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愛より出でて哀より蒼し

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ライ。

名前を呼ばれて足を止めた。まさか、と心臓が大きくなる。振り返ることが出来ないのは認めたくないからだ。背後でこつり、と靴が鳴る。戸惑っている空気が吹く風と共に伝わってきた。頬を撫でるそれは、彼女の纏う空気となにひとつ違いはなかった。なんて、懐かしい。
だけど、この場所にはひどく不釣合いな気配。

「ねえ、ライでしょう?」

確信。
怯えながらもそれでも力強い、よく通る声。たった一人だったときに、励ましてくれた声だ。
共感、共有。一番それらに近かったのは彼女だろうと思っていた。感情が表情に出やすいから余計だろうか。すこし可笑しくなって、頬を緩めた。
こつり。また靴が鳴る。
こつり、こつり。
これはもしかしたら記憶を消した分の時間の刻みなのかと突然思った。糾弾されている気分になる。それに耐え切れず、距離が縮まってゆくのを気配で感じながら、ゆっくり振り返った。

「・・・やっぱり、ライ、だね」
「うん。久しぶり、シャーリー」

こつ、彼女の歩みが止まる。視界が見えづらいのに、すこしだけ泣きそうに歪んだ顔が見えた。なぜかとても責められている気分になって、視線を下に逸らした。

「元気、っぽくないね。ねえ、何かあった? 急に居なくなって・・・」
「ごめん。詳しくは、言えない。それよりもここは危険だから、早く避難したほうが、」
「ルルを探してるの。ルルはひとりで戦ってる・・・! だから、わたしも・・・」

胸の前で握り締められたものは、人を殺すためのものだった。
決意の表れか、否か。短く考えたけれど、先ほどから続く頭痛は良くないものを訴えている気がしていた。これは知ってる。
よく、知ってる。(母と妹を死なせてしまったときのとよく似ている)

「ライ。ルルがどこに居るか知らない!?」 
「・・・知らない」 
「本当に?」
「うん。シャーリーに嘘を吐く理由はないよ」

彼女はぎゅう、と拳銃を握り締めて短く息を吸ってから、真っ直ぐ見据えた。

「ライはルルがすき?」

それは唐突な質問だった。あまりにも突然で言葉の意味を理解するのに時間がかかってしまい、それでもシャーリーは身動きひとつもせずにただ見据え続けた。
答えはどうであれ、彼女のひたむきな眼差しはルルーシュを思う気持ちから来るのだろう。あの頃のまま。
そう思うと、何故か視界がにじんだ。
彼女が驚いた顔をして、大丈夫かと頬に手を差し伸べてきたが振り払えなかった。

だってどちらを答えても、彼女はゆくだろう。
そのひたむきな、狂気のような想いを抱えて、ゆくだろう。何も変わりはしない、あの頃の、出会ったときの彼女のまま。 

きっと、何を答えても、いってしまう。


(やっぱりライはライだった。あの頃の、あの時のままのライだったよ、ルル)





お題配布元:不在証明
作品名:愛より出でて哀より蒼し 作家名:水乃