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いとしいとしの話です。

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「せんせー。」
この間延びした可愛い声はあの子だ。
すぐにわかって目を開ける。黄色いふわふわしたその姿が見えた瞬間また目を閉じて寝たふり。
木の上に居る俺に気付くかな?気付くよな?気配を消してないし、まさかこれくらい気付いてくれるだろう。
仮にも忍びでしょう?

「カカシせんせー?」
俺の真下できょろきょろしてる。気配でわかる。
どうすんのさ、そんな無防備で。
少し木を揺らして葉を落としてみた。やっと気付いたのかあの子は上を見上げる。
ああ、その視線に晒されるだけで背筋がゾワリとするからほんと救えない。

「っ、カカシせんせー!」
寝たふりを続ける。もっと俺の名前を呼べばいい。
「カカシせんせーってばよー!」
木を蹴ったのか、俺の体に振動が渡る。
右手だけ挙げて反応してみた。
「どーしたの、ナルト。」
「どーしたのじゃないってばよ。もうとっっっくに集合時間過ぎてるってばよ!」
むーっと怒った顔をしてみせるナルトは可愛い。
実年齢より幼く見えるその顔がもっと幼く見える。
俺としては早く大人になって欲しいのだけど。

「そ?ごめんごめん。」
木から降りて軽く謝ってみせると「まったくしょうがない大人だってばよ。」と言いつつどこか嬉しそうだ。
「サクラとサスケは?」
「サクラちゃんは先生のことアカデミーのほうへ探しに行ったってばよ。サスケは知んねー。」
「そ。」
「ヘヘ。」
「?何か嬉しそうだね、お前。」



「だって俺がカカシ先生のこと見つけたってばよ。」


他意は無いってわかっててもときめく胸にほんと嫌になる。


「これなら今日の猫探しも俺の大活躍間違いなし!」
にっと笑ってVサインするナルト。ナルホドね。ソーイウコトね。
下心ありの男にとってはナルトの一言がどんなに大きいことか、きっとナルト自身はわかってない。
それくらい、君はどうしようもない子供だ。

頭をくしゃり、と撫でてやると一瞬驚いて、すぐに嬉しそうに笑って見せる。

「さーて、今日も任務頑張りますかねぇ。」
「カカシ先生はもっとやる気ってものを出すべきだってばよ。」
ああ、ほんとに。生意気な口調もバカみたいに愛しい。





この穏やかな日々が続いて、君がいつまでも子供のままで居てほしいと思う反面、
早く大人になって俺のこの葛藤とか薄汚い感情とかを理解できるようになって欲しいとも思う。
出来る限り君の生きる道が平坦で平凡で嫌なことなど無いように願う反面、
辛く厳しい日々に打ち負けて俺に「逃げたい。」と泣きながら訴える日が来てくれたら良いと思う。

そしたら、俺は何もかも投げ捨てて君と逃げてみせるよ。


ああ、でも、きっとそんな日は来ないんだろうなぁ。
例え、どんなに厳しく辛い現実が待っていようとも。
その光は悔しいくらい曇りやしない。




(あの人の子だもんなぁ。)