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ストロベリー・サンセット

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「水族館行きたい」
夏休みの宿題、メインを飾るドリルを広げた上に突っ伏した渚が突如口にした一言で、怜は硬直した。
「え」
「イルカ観たい。シャチ居るかな。サメ……ペンギンのお散歩、何時頃かなぁ」
ちょうちょは居ないよね。そう呟いた渚は既に携帯電話を手にしていて、最寄りの水族館のウェブサイトを開いていた。
「な、何を考えているんですか渚くん! 明後日で夏休みは終わりなんですよ!? 宿題が終わらないっていうから手伝っているのに、っていうかひとつも終わっていない……」
「よぉっし、今から行こうっ!」
立ち上がった渚は怜の腕を引いて引き摺って、空調の効いた怜の部屋を出た。
抗議は受け止めたのと反対側の耳から流し、示し合わせたかのように到着したバスに乗り込む。
言うだけ無駄だ、と解っていても収まりのつかない気持ちを小声で吐き出し続ける怜に、窓際の渚は夕陽を含んだ笑みを向けた。
「レイちゃん、夏休みの間もたくさん練習頑張ってたからね! ごほうびごほうびー」
リュックの中から取り出したポッキーを一本差し出され、怜は渋々と咥える。渚の顔が一層綻んだ。

停留所から徒歩10分の水族館は丁度閉園したところで、しょんぼりと肩を落とす渚の横で怜は「だから止めようとしましたのに」と息を吐く。
周囲には他に娯楽施設は見当たらず、長い影を連れてバス停まで折り返す事になった。
前を歩く渚の両手が、反っている。
まだ諦めが付かないのか歩幅を小さくして進む彼に追い付くと、口先を尖らせた横顔が見えた。
ペンギンのお散歩。
頭の中を過り、怜の笑いを誘う。
ぐりん、と顔を上げて「何っ?」と訊ねてきた渚に、口許にこぶしをあてて笑みを殺した怜が言った。
「何でもありません。いちごみるくアイスくらいなら奢りますから、機嫌直してもらえますか……?」