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共に奏でる

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 教会の鐘が新しい年の幕開けを、遠くから告げてくる。
オレはその音をソファーで聞きながら、暖炉の暖かさを満喫していた。
本当なら、教会へ行って、信者の方々と一緒にNew Yearを祝いたかったんだが、はっきり言って奴に潰された。
起き上がりたくても、腰が痛くて体を動かすにも時間を要するようでは、外出は無理だ。

「まったく……。なんだって言うんだ」
「何がだね?」

つい愚痴った声に返事が来るとは思わなかったオレは、驚きに跳ね起きかけて、襲い来た激痛に沈没した。

「!!…・っう!…」
「ああ、すまない。君を離したくなくて、先ほどはかなり無茶をした自覚はあるんだ」
「自覚があるなら、オレがどう思ってるかも理解してるんだろうな」
動けなくなった元凶の言葉に、オレはむかっ腹を立てて睨みつけた。

「理解はしてるが、反省はしていない」
「はぁ?!! っつ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「無理に起き上がらない方が良い。新しい年の初日、君は私の傍から離れる事は出来ないのだからな」

悪びれた様子もなく当然そうに告げられると、それが正しい事のように聞こえてくるから性質が悪い。
「まぁ、そうなるよう仕向けたのはまごう事無く私だから、一から十まで君の世話をやかせてもらうつもりだ。心配いらないよ」
奴はそう言うと、オレの体にブランケットを被せ、クッションを増やして楽になるようにした。

「さて。このワイマールの町で有名な男が作った曲を、New Yearの最初の贈り物として君に捧げよう」
「はぁ??」
「おや? 知らないのかね? ここは作曲家のリストが愛する人と過ごした土地であり、その思い出と共に終の棲家とした街でもあるのだよ」
奴はそういうと、リビングの片隅の置かれたチェンバロへ向かうと、おもむろに鍵盤に指を走らせた。
流れ始めたは、芸術音痴のオレでも耳にした事のある甘やかな曲。

「……この曲…名前はなんて言うんだ?」
「愛の夢 第3番。リストが愛した人との想いを綴った曲と言われている。もっとも、私は何があっても君を手放す気はないし、離れ離れにされる気も無い。リストのように、愛した人が他国の貴族の奥方だったからと尻込みする様な愛し方はしない。君と共に、命の、そして愛の詩を奏で続けてみせる」

奴の言葉はかなり挑戦的なのに、奏でられる音は優しく甘くオレの耳を擽っていく。
穏やかな眠気が押し寄せてくる。
オレはそれに抗う事無く身を委ねながら、これだけは言っておこうと口を開いた。

「オレだって、シャアの手を離す気なんか無いからな。今更離す位なら、あのアクシズでνでポットを庇うなんて真似…してないよ。信じろよ……オレは………あん…と、死ぬ…でいっしょ……」

最後まではっきりと伝えられたか解らない。
でも、朝日の中、寝室のベッドの中で懐深くに抱きこみながらも、安心しきった表情で眠る奴の表情を見て、オレはしっかりと伝わったんだと確信した。

 死が2人を分かつまで、俺たちは共に命の詩を奏で続けよう。

2014.01.02
作品名:共に奏でる 作家名:まお