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その場所は、何を意味し誰を指す地であるのか。

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 灯りもない暗い港にたったひとりたたずむ女。
 言うまでもない。本来のオレが一緒にいるという時点で、可能性はマイマスター、バゼット・フラガ・マクレミッツというひとつしかない。


 バゼットはただ無言で、海を渡り吹いてくる風に髪を遊ばせながら海とも堤防ともつかない場所を眺めていた。

 ……何回めのサイカイからだったか。
 それからも記憶するのが億劫なほどに繰り返してきたから、いつからなのかはわからない。
 バゼットは夜の巡回の間、必ず港に立ち寄りしばしの間佇んでいる。
 まるで、誰かを待っているように。何か見えないものが見えるのを願っているかのように。本人にはそんなつもりはないだろうが。


 バゼットが何を見ようとしているのかはわかりきっている。
 マスターとオレは契約でつながっている。だから、バゼットはなんとなくわかっているのだ。この場所に、いつもあのヤロウがいるということを。
 けれど、このバゼットは知らない。あの青い槍兵のことを。
 それでも、無意識のうちにこの場所に足を向けてしまうのだ。
 バゼットにしては珍しく無為な時間を過ごすためだけに。


 そしてオレは決まって、けして振り返らないバゼットの数歩後ろでそんな彼女を眺めている。
 面白くない気持ちも、そのカタチもいつも一緒。ただ繰り返すごとに同じカタチのままだんだん大きくなっていってるのはちょっとヤバイかもしれない。

 何がヤバイかって、バゼットの無防備な背中を見ていると衝動的にメチャクチャに壊してやりたくなるから。
 硬いコンクリートの地面に押し付けて、バゼットの白い肌やスーツ越しにもわかる華奢な体を壊れるくらいに蹂躙してやりたい。ふとかがんだ時に見えるうなじなんか、人間凶器の異名をとるとは思えないほどに細くて、歯を立てたらどんなにか気持ちいいだろうかと思う。
 いややらないけど。たぶんオレの頭の方が先に赤い軌跡を残してこの世から消滅しちまうし。

 それでも、オレがアンリマユである以上、そんな衝動をこらえていられるのも限界があるというか。まあ、マスターにブチ殺されるっていうマヌケな結末は避けたいのでできうる限りガマンする。人間忍耐だ忍耐。オレ人間じゃないな、そういえば。
 それでも今回は無事その糸が切れるまでにバゼットは振り向いてくれた。
 コングラチュレーション 、どちらかといえばオレ。



「巡回を続けましょう」

 そう機械的に言って、バゼットはくるりと踵を返した。
 その一瞬に垣間見えた表情は見なかったことにした。苛立ちがぶり返しそうだったし。
 まあ、そう考える時点で結構苛立ってるのかもしれないが。

 ―――そうだな、次の繰り返しでは、あの白い喉元を食いちぎってやろうか。
 そんなことを考えながら、オレはマスターの後を追った。