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その場所は、誰を指し何を意味する地であるのか。

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 暗い海。夜の帳が落ちた空。
 それを眺めながら、バゼットはかすかに響く口笛の音に耳を傾けていた。

 もう幾度、この場所にこうやって佇んでいるのだろう。思い出せない。



 ……少し前だ。
 まだ、両手の指で足りる程度前のサイカイの時。

 無為なことで時間を浪費している自分に苛立ちながらも、この港で確かに感じる気配を求めて足を運んでしまう。
 その気配が懐かしくて、けれどもなぜそんなことを思うのかわからなくて、もどかしさにに泣きそうになる。
 そんなことも、ふと思い出した出来事がいつのものなのか思い出せないくらいに繰り返して。
 持ち越した気持ちが、ただ澱のように溜まって、ついに溢れそうになってしまった瞬間だった。
 背後から、細くかすかな旋律が聞こえてきた。
 その音は、一度も聞いたことのない流れであるのに、どこか懐かしさとを感じた。胸の虚をえぐるような、苦しげなものではなくて、いつか帰り着く場所に似合いそうなあたたかいもの。
 しばらくして海を渡る風に乗って遊んでいたその音色が途切れた時に、振り返って自らのサーヴァントに向き直り、

 もう、お終いなのですか? 

 そう問いかけると、黒い影に似た姿の彼は一瞬きょとんとした後。

 気に入った? マスター?

 そう言って、ほんとうに嬉しそうに笑った。いつもの斜に構えたような皮肉な笑い方ではなくて、少年のように無邪気な、得意そうな笑い方で。



 それから、彼はここに来るたびに口笛を吹く。
 けしてうまいものではない、旋律が途切れることだってある。それでも、バゼットが踵を返すまでずっと彼は音を紡いでくれる。
 そして、数回に一回、振り返るとそれを止めて笑う。
 繰り返される戦いの中の、少しの変化。



 多分、今の私は、この音色が聞きたくてこの場所に来ているのだと思う。
 ……それだけが、消化も昇華もできないこのもてあました感情を、少しだけ、鎮めてくれるから。
 次も来るだろう。その次も。ここに、彼と共に。
 ずっと先はわからないけれど、振り返った時に彼があの時と同じように笑ってくれるなら、きっと私は。