敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯
「本当におっしゃる通りですわね。あんなところに貨物輸送機でガミラスを墜とせるパイロットを置いておける者がいるとしたら神だけよ。古代進はずっと前から神に生かされてきたんだわ。きっと神に愛されてるのよ。その彼が乗ってるんですもの。この航海はきっと成功するでしょうね……でも、クルーひとりひとりの命についてはどうかしら。〈コア〉が〈ヤマト〉に届くためにどれだけ死んでもよかったのなら、コスモクリーナーを地球に持ち帰るためにどれだけ死んでもいいことになる。あたしは船務士ですもの、古代を取るか百人のクルーの命を取るかとなれば古代進を取らねばならなくなるんでしょうね」
言って立ち上がる。だからそういうものの考え方はよせ、と言うヒマもなく、森はスタスタと去っていった。
とんだ休憩だ、と思いながら島は残ったおにぎりを口に放り込んだ。まともな米と海苔で作ったおにぎりなどじきに食えなくなる。今後は合成されたでんぷんを米の形に固めたものに、水槽に光を当てて育てた藻を平らにした〈海苔もどき〉を巻いて食べることになるのだ。
今のが最後かもしれなかったんだけどな、と考えながら、島は森が言い捨てていった言葉を思い浮かべてみた。
古代のために地球人類が救われる。多くの命を犠牲にして――それがたとえある意味では事実としても、その立場を喜ぶ者がどこにいると思ってるんだ。三浦半島に遊星が落ちたのも神の思(おぼ)し召しとでも言うのか。古代進が神に愛されてるだって?
「バカな」と言った。「それを言うなら、疫病神に見込まれてる、だろ」
作品名:敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯 作家名:島田信之