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撮影中 case2

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「お登勢さーん」

 切妻の屋根瓦にかけられた看板には、女主人の名がぼんやりとしたフットライトで浮かび上がっている。スナックお登勢の引き戸を、年若い娘がからりと開ける。

「申し訳ないけども、お醤油お借りしたいんですけども」
「おや花子、あらなんだい?今日は随分めかしこんでるね」

 せやねん、がんばってますやろあたし、と花子は鼻にかかった声を出す。
「けどすまいるのねえさんたちにはえらいダメ出しくらいましてんコレ。お登勢さん的にはどうですか?」
「かわいらしいじゃないか、あたしが若いころはやった感じに似てるよ」
「リバイバルやねんのにそれがちっともわかってへんねんあの人ら」

 お登勢のママはほほほと笑い、お醤油だったねえと言って奥へ引っ込む。花子はきょろきょろと、昭和のテイスト芬々たる店内を眺める。壁のポスターの中でビールジョッキを手にしている大昔の女優と目が合う。レトロなキャッシュレジスタには天人語のメモがべたべた貼ってある。低く吊り下げられた電灯の暖かい光に照らし出されたカウンターで、なじみらしい客に給仕をしていたからくりが近づいてきた。花子は思わず声をあげる。

「わあ、あんたがからくりの女給さん?めっちゃかわいい・・・」

 からくりがいらっしゃいませ、と言っておしぼりとお冷とスツールをすすめるので、花子は見とれたままよいしょっと座って、頬杖をつく。阿音さんは“トンボの複眼みたいな目をしていてすごく気持ち悪い”とか言うとったけど、そんなこと全然あらへんわ。

「たまです。何かお持ちしましょうか」
「ううん、すぐ戻らなあかんし。けどえらいかわいいわぁあんた。ここでなにしとるの?お客を取ってるの?」
「当店は飲食店ですから、接客はカウンター越しですし、おっしゃるような営業は行っていません」
「そんなら、なにしてはるの」
「お掃除をしたり、お酒を運んだり、お客さんとゲームをしたり」
「ええなぁ~楽そうやん。あんたはお料理も上手で、歌も歌えるってねえさんたちは言うとるけどほんま?」
「ええ」
「あたしはね、お勤めがあるから、なかなか行かれんようになってしまったけど、ダンスが好きやの。こっちに来るまえ言われてん、自分の踊り方は派手やないけど、疲れにくいねんなって。あたしもな、一晩中でも二晩でも三晩でもずっとずっと踊り続けられる気がすんねん。けどあんたもからくりやし、いつまででも踊っておれるんやろね」

 今度一緒にいこか?と花子が誘うと、おたまちゃん、生!と声がかかる。からくりは客に好意をもって迎えられているんだな、と花子にもわかる。だって、こんなにかわいくって、とっても素直なんだもの。なじみの客の大部分は、そこにいることによって店全体にぬくぬくとした親近感が漂う、光を浴びたカウンターの前に座りたがるのだろう、からくりが瓶を持っていこうとするので、花子はちゃうちゃう、と言って、外側から手を伸ばして、サーバーから生ビールを注ぎ、からくりに渡してやる。カウンターの裏側にも、メモが貼ってある。店に一台備え付けてあるカラオケで、客がよく歌う曲と番号のアンチョコだ。歌のラインナップからいって、メイン客層は四十代後半~五十代前半くらいだと花子は見る。複雑な文字を連ねた歌詞カードらしきものもある。天人に日本語のハードルは高い。

「ここのお店には天人のねえさんがおったやんな」
「キャサリンさんですか?どうしたんでしょう、お留守ですね」
「まあ、うるさいねえさんはいてへんほうが気楽やんな」

奥からお登勢のママが出てくる気配がして、花子は早口になる。

「あたし、あんたには何の恨みもないねん、けどな、ねえさんたちがあんたはうちらホステスの商売がたきや言うて命令するからしかたなくすんねん、」

 あたし、阿音さんに気にいられたいし、借金も返さなあかんし、と言いながら花子は爪先立ちになって、ガラスコップの水をからくりの額の起動ボタンに注ぎこみはじめた。

「悪く思わんといてね、あと、“あんたらは万世橋を一歩も出るな”、伝えたで」

 何食わぬ顔で花子は醤油の瓶を受け取り、カウンターの向こうですっかりかたまっているからくりを置いて店を出る。

→case3
作品名:撮影中 case2 作家名:11111