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"Welcome to maniacs!!"

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少年は一人、電車のシート端に座っている。
そして魅惑的すぎる電車の揺れに抗えず、一抹の申し訳無さを胸に抱きながら、隣に並ぶ肩に頭を預けてゆらゆらと夢現を行き来し始めた。
その耳にドアに寄り掛かった少女達の声が潮騒のように近く遠く響く。
『運命の相手が…、…』
そんなの本当に居んのかな?
時々現実に返ってくるたびに少年は思考する。
そんな物信じているのかい?
頭を預けた方から聞こえた声に思わず口にしていたかと恥じ入るも、眠気を纏って重たくなった唇は微動だにせず、少年はほんの微かに首を横に振った。
そう…なら本当にそんな相手が居るとしたらどうする?
逢ってみたいと君は望むかい?
声の合間にパラパラ音を立てる薄紙。
パタンと閉じた音と少年の手の甲を撫でた微風はハードカバーの優しい硬さだろう。
構内に侵入すると緩やかに止まり、予め指定された時間きっかりに走り出す鉄の塊。
等間隔の振動。
薄っぺらい別珍は仄かに温もり、薄い体を暖める。

『トト、ン…トト、ン…』

やがて無防備な思考の只中に居る少年は答えを探す。
嘘臭い願望から来る話…だけど。

——そんな者が本当に居るとしたら?

その時、瞳を閉ざしたまま僅かに顎を引いた少年の携帯がけたたましい音を上げた。

覚醒は唐突な驚きで、夢の名残は瞬時に引いていく。
飛び跳ねて目を見開いた少年は考える間も無く、停車して開いていたドアの先へと飛び出した。
鳴り止まない携帯をポケットから取り出すと、煌々と照った画面にこれから会う約束を結んだ相手の名前。
『遅い、遅いぞ…』
遅刻している訳では無いのに、自分のフルネーム付きで拗ねた風な文面。少年は一見冷たい凛々しさの相貌を苦笑に崩した。
微かな風が少年の癖毛を揺らす。
何気なく少年が振り返ってみると、電車はゆっくり車輪を回して次の行き先へと進み出していた。
何の変哲もない有り触れた光景なのに、何故か後ろ髪を引かれる感覚。
緩く頭を振った少年は気を取り直して顔を上げる。
「約束は…新宿衛生病院だっけ」
友人の名前と同時に約束を思い出して独り言ちると少年は駆け出した。
夢現の記憶は砂時計に入れられた粒子のように一気に傾き落ちていく。
目を覚ました少年の中に何も残らない。
隣に並んだ誰かの記憶も、もう。

カーブを曲がっていく電車の車輪が一度だけ別の物のように甲高く鳴いて闇を疾駆していく。


"Welcome to maniacs!!"
作品名:"Welcome to maniacs!!" 作家名:輪車@丹羽