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出会い

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机に向かって、ただ黙々と鍵を触っている男―黒羽快斗と出会ったのは、とある事故がきっかけだった。
彼をじっと見ながら、何杯目かわからないコーヒーに口をつけた。

上司との同行で、とある銀行に向かった。セキュリティは万全なんですよという銀行担当者の言葉を軽く聞き流しながら、そして時々すごいですね、と相槌を入れていた。
銀行という場所にはあまり興味はない。もちろんこれから向かう、金庫には少し興味があるけれども、わざわざ見たいまでもいかない。
上司が金庫の中に入るというのも、誘われたがわざわざ中にまで入りたくもなく、外で待っていますと答えたのが原因だったのだろうか。物を落としてしまったときに、慌てて拾いに行こうとしたら、なぜだか金庫のドアにぶつかった。そしたら、なぜだかぎぎぎと動いてしまってしまった。その流れは、あっというまだったような気もするし、スローモーションのようにも思えたが、どちらにしても上司と鍵の開けられる銀行員が閉じ込められたことには変わりない。
誰かが電話しているのをききながら、自分も同じよに上司に電話をかけてみると、不思議なことにつながった。
「あ…」
なにを言おうかというときに、後ろからぶつかられて、勢いのまま電話を切ってしまった。なにをするんだ、といおうとしたよりも先に、銀行担当者のお待ちしてました!という必至な声に、ああ開ける人が来たのかな、と思った。
なんでもこの銀行を担当しているセキュリティ会社の者だそうだ。
羽織っている作業着にも、その会社のロゴが入っているが、それより気になるのがその外見だ。
なにやらひょろひょとっと背が高くて細そうだし(実は人のことを言えない)黒縁メガネをかけてどことなく頼りなさそうだし、なにより寝ぐせなのかおしゃれなのかわからないくるくるっとした髪の毛。
(コイツで大丈夫なのかよ)
そんなことを思った自分は、もしかしたら人を見る目がないのかもしれない。

開けられないだろうと、銀行側の人間がひそひそしているなかで、黙々と作業をし、開いてしまったその姿は、とにかくきれいだった。
思わず金庫破りなのではないかと思うくらいに。
鍵があき、金庫室から出てくる上司よりも、この男のことが気になってしまって、じっと見ていたが、あちらは自分の仕事が終わったと、片付けを早々に行い、担当者と話をしている。

「請求は、会社を通して遅らせていただきますので、よろしくお願いいたします」
「いや~…まさかこの金庫を開けてもらえるとは思わなかったよ」
「警備強化の件でしたら、また次の機会に」
「あ…あぁ」

ぺこりと頭を下げると、そのまま出て行ってしまった。
俺は、上司に話しかけられたがそれを無視して、彼を追いかけた。

「あ、あの!」
「まだ、ないか?」
「ありがとうございます。お…私は、○事務所で弁護士をしている工藤といいます」
自己紹介をすると、彼はやっと工藤のことを見た。
メガネと髪の毛で気づかなかったが、彼の目はとても深くて引き込まれる色をしていた。
「…弁護士さんですか。私は、帝都セキュリティの黒羽です。ご縁はないと思いますが、よろしくお願いします」
渡された名刺には、先ほど名乗った会社名と、名前が書かれている。
(黒羽…快斗っていうんだ)

それが、俺―工藤新一と、黒羽快斗の出会いだった。
作品名:出会い 作家名:むむ