機動戦記・・・・ Anfeigned Trues 1
ソレは、いつの時代も最強のMSとして君臨していた。
ソレは、ある時は”自由”、またある時は”反抗”の象徴として仲間を率いて戦った。
いつのときも、その名には希望の意味が添えられていた…。
その名は”ガンダム”。
次代を切り開く、伝説の英雄だ。
<章=序幕 1 ガンダム>
僕はコックピットの中で落ち着いていた。
小さな昆虫の、踏み潰される直前の断末魔のような音がして回線が繋がる。
「よお、アンフェクター=クライン。調子はどうだ?」
第一印象は浮浪者。その後しばらく付き合って見た目通りの人だとわかった。
逐一フルネームで呼ばれるのは好きではないが、階級付きで呼ばれるよりはマシだ。
「ウェインさん、目標との遭遇まで残り10秒切ってから入れる通信がそれですか?」
「とか言ってる間に目視で確認した。迎撃行動に移行する」
「じゃあ、通信を切りますよ」
「いいじゃねぇか。駄弁りながらヤろうぜ」
頭が痛くなる。シュミレーター内ならまだしも、これは実践だ。命が花弁のように舞い散る戦場で、命がけの戦闘中に駄弁ろうぜ? だなんて……やっぱり、この人の考えていることがわからない。
駄弁ろうぜ? なんて言っておきながら、結局はウェインばかりがしゃべり続けるという未来が見えるのは経験則だ。
戦場でBGMと言うのもなんだが、駄弁っているより多少は生存率は上がりそうだ。
「別に……いいですよ」
逡巡のうちに応えた。
それと同時に戦争は始まるのだった。
浮浪者こと、ウェイン・カーバーの乗機はガンダムエッジヴォルフ。
名前の通りに、両腕に実体剣のデスリッパーとビームファングが一つずつ装備されており、近接の対MS戦用の格闘機である。シールドで防御されようとも、高出力の超絶パワーで楯もろとも押し切る。
乱雑でいて、力強いウェイン・カーバー本人にそっくりな機体だ。
敵の三つ目のMSは全部で13機。リーダー機が4機でそれぞれ2機づつを引き連れて、そのリーダー機たちをさらにカスタムされているエース機が従えているのだろう。
前方の4機が牽制のマシンガンの弾幕を張る。
しかし、いかに『弾幕はパワーだゼッ!』と撃ちまくったとしても、そもそもがパワー不足のマシンガンではこちらの脚すら止められない。
「じゃあ、俺が先に突貫するぜ」
ウェインが言うが早いが加速していく。【影遠の白狼(えいえんのはくろう)】の二つ名を自称しているのは伊達ではなく、白い機体が影をも置き去りにするような鋭い速さで敵の陣営に斬りこんでいく。
「後ろは僕が守りますよ」
負けん気があるわけでもないが、仕事をしないわけにもいかないのでフォローに回ることにした。既に2機を葬ったウェインだが、取りこぼした三つ目が彼の背中を狙い撃つ前に僕が片付けなくてはならないのだ。
「ABCOユニット起動……チャージ率100%。フォトンレイピア起動準備……オーケー」
「陰気臭ぇよな、そのいちいち確認事項呟くの」
「通信終了します」
「ちょっ、待っ!」
「冗談です。癖なんだから仕方がないでしょう。ウェインさんだって、機体に攻撃が当たるたびに悲鳴がうるさいんですよ」
「それは俺がヴォルフの感覚をだな……ぐわぁぁっ!?」
1機の三つ目がバズーカでウェインの機体の足元を爆撃した。衝撃だけでダメージは無いだろうに、まったくをもって大袈裟な浮浪者だ。
まずは取りこぼしの3機に戦場からリタイアしていただこう。
腰部のフラットキャノンで3機の注意をこちらへ引きつける。その際にはもちろん命中などしない。僕に射撃の腕前を求められても困るのだ。
ただ、こちらに背中を向けていた3機がこちらを振り向く時間。たったそれだけの時間があれば、ブーストもスラスターも全速力で飛ばして、一瞬でフォトンレイピアの射程である10mに3機ともを捕える。
密集すれば弾幕はそれだけ多く張れる。しかし、僕からすればただのいい的だ。僕のガンダムの右前腕部にそれはある。博士が僕に残した最後の贈り物、ABCOユニット。
殴るかのようにその拳を先頭の1機に突き出す。あとはスイッチを押すだけだ。
空が叫ぶ。大地が悲鳴を上げる。幾重もの光の束が解き放たれ、3機で群れていた三つ目の体を突き刺した。絶叫のようなこの音はフォトンと空気の摩擦によるもの。これは決してビームではない。
一瞬で敵部隊の半分が壊滅したこの戦況。エース機が撤退を宣言したのだろう。数機がこちらに弾をバラ撒きつつ後退を始めた。
射撃兵装には堂々と「自信が無い」と言えるこちらの機体では、ああなった敵には手を振って見送るしか為す術がない。
本当に手を振っている浮浪者とガンダムを無視して、僕は帰投ポイントへと道を急いだ。
作品名:機動戦記・・・・ Anfeigned Trues 1 作家名:異星 大星